狼は恐ろしい
迅雷のヨアキムは苛烈な攻撃を受けながらも、医務室に転送されるその瞬間までアクセリナの足首を掴んでいた。
「…言いたいことも色々あるけどアクセリナの勝ちね…まさか、迅雷の女好きの被虐趣味がこんなところで暴発するなんて」
気持ちもわからんではないがな。しかし、ブーツ越しとはいえ許せん。
アクセリナは無事?ギルドカウンターでBランクと書かれたギルドカードを支給された。
早速、クエストボードに貼られた依頼書を物色する。
薬草採取、モンスター討伐、森林警備隊の援護、作物の収穫、etc…
やはりモンスターの討伐が報酬額が高い。
「地道に稼ぐか…ん?」
報酬の額が異様に高いクエストがあるな?報酬額の桁が1、2…。
「ああ、そのクエストですか?」
いつの間にか隣に来ていたアウロラさんが困った顔をしていた。
「最近、南方の海で船が大型モンスターに襲われて沈められているのですよ。モンスターの種類は不明。なんでも急に大きな衝撃が船を襲い船底に穴が開くらしいです。このモンスターのせいで船を出せなくてかなり困っているらしいです」
「南方の海?ここからかなり距離があったと思うが…それだけ討伐に手間取っているということか?」
報酬額の多さや距離が離れたギルドに依頼書が出回っているということは、そういうことなんだろう。
「はい、仰る通りです。このままでは、港町が干上がりかねません。また、ここアルムにも影響が出始めています。地方を治める領主がかなりの私財をなげうってこの依頼を出したらしいのですが、クエストの難易度が恐ろしく高くて」
それはそうだろう。
回りは海で相手の土俵で戦うことになるし、敵の隠密性も高い、一撃で船に穴を開ける攻撃力、こちらの機動力も恐ろしく制限される…はっきりいって冒険者が出張る規模の問題ではない。海軍…があるのかは
知らないが、国を挙げて討伐に乗り出すような案件だろう。
「あら、その依頼を受けてくれるの?」
セルマさんが話に入ってきた。
「いえ受けませんが…軍などは動かないのですか?」
「それが困ったことに動かないらしいのよ…お隣の国はちょっと…上がかなり…ね?そういうのもあって冒険者にお鉢が回ってきているのだけれど、予想されるクエスト難易度は特級、受注制限はAランク以上、討伐の失敗は即、死につながるとなっては受けるような命知らずもいないという訳よ」
狼耳も困った困ったとせわしなく動いている。
「そんな目で俺を見ても…受けませんよ?大体そもそも俺はBランクなので受けられませんし」
「いい?特例という言葉があるのよ。…もし受けてくれたら、私の先祖返りを触らせてあげてもいいわよ?」
「ぐっ、う、受けません…よ?その手には乗りません」
恐らく、ライオンキングから情報が漏れたのだろう。
前にセルマさんは、ライオンキングの師匠だと言っていたからな。
しかし耳を報酬にするとは卑怯な!!
「ショウ、ちょっと上の執務室に来てくれる?」
ふっとセルマさんの姿が掻き消え
俺を縄でぐるぐる巻きに縛った。
「ちょっと!!何を!」
「ふふ、一名様ご案内」
俺を軽々とセルマさんが抱え上げて執務室に拉致しようとしている。
「ちょっと!!は、はずれない?!ウィンドスラッシュ!…あれ、発動しない?!」
縄に魔封じの効果があるようだ。
「だ、だれか助けッ?」
ギルド内の全員が顔を逸らした。
いや、アクセリナだけが俺を助けようとしてくれる。
「ショウを離しなさい!!」
「アクセリナさん。今なら彼を好きにできるわよ?キスでも何でもね…」
「なら仕方ないわね?」
何がだ?!あっさり買収されやがった。
アネッテは青ざめて恐怖でふるふると震えている。
訓練でセルマさんと何があったんだ?
「ちょっと!あ、あ、あっーーーーーーーーぁぁぁ…」
俺は、ドナドナされた。