狐耳
目が覚めると
ぴこぴこ
ぴこぴこ
目の前で狐耳が揺れていた。
俺は狐耳スキーである。
おまけに俺のお腹の上にはふさふさ尻尾が放り出されていた。
もう一度言おう俺は狐耳スキーである。
勿論ふさふさ尻尾も大好きだ。
思わず呟く
「ここはパライソですか」
どうも俺はワイバーンから狐耳を助けた後、気絶したらしい。
恐らく俺を放って置けなかったのか、狐耳御一行は馬車で俺を運んでいるらしい。
縄や猿轡で拘束もされておらず、無用心に感じつつも、恐らく助けたことに恩義を感じてくれたのだろうと、推察する。
それで、何故かはわからないが狐耳が膝枕してくれているらしい。
遠くから見たときはよくわからなかったが、狐耳の顔は良く整っており、美人さんだった。
髪の色はブラウン、肩に掛かる位に伸ばしている。
勿論、狐耳と尻尾は黄金色である。
胸が大き過ぎず、かといって小さ過ぎず所謂並くらいである。
服装はかなり軽装で、関節部分を申し訳程度に守っているのみで、丈夫な冒険者の服といった出で立ちである。
多分巫女服を着せれば俺の目から血涙が流れ出るだろう。
そんなセクハラめいたことを考えつつも、頭を切り替えて今後どういうスタンスで狐耳らと接していくか考えた。
この星に狐耳がいるとわかった以上、コミュニケーションを避け仙人の様な暮らしをするという案はなしだ。
俺が欲望に耐えられない。
彼女らと友好関係をなんとしてでも築き、いつの日か狐耳や尻尾をモフモフさせていただくのが、俺のこの世界での目標だ。
とやはり頭が切り替えられずにいると、狐耳が薄く目を開き、その後カッとその髪の色と同じブラウンの目を見開き顔を赤らめながら俺の体を起こしてくれた。
狐耳が目をカッと開いたとき耳と尻尾もビックリしたのかピシッと立っていた。
俺と狐耳は同時に言葉を発した。
「ありがとうございます!!」
「!!!??!!」
そりゃあ狐耳と尻尾にお礼言わないといけないだろうと思ってお礼を言ったのであったが、彼女が発した謎言語のことを考えると言葉が通じていないのがわかる。
当然だろうここは地球ではないのだから。
どうするかなと俺が考えていると、彼女も同じ事を考えていたのであろう。
ボディランゲージによる意志疎通を図る。
二人して同時に頭を下げた。
「「…」」
5秒位だろうか二人して頭を下げて固まっていると、俺のお腹の虫がぐぎゅるるると盛大に騒ぎ。
狐耳は目を丸くして驚き、二人は同時に笑いだしたのだった。
とりあえず俺の腹の虫のお陰でファーストコンタクトに成功したのであろう俺は、分けて貰った干し肉とパンをかじりながら、狐耳とボディランゲージによる会話を楽しんでいた。
どうやら狐耳の名前がアネッテであることや、ワイバーンから助けてくれたことに礼を言いたいらしいこと、どうやら褒賞が貰えるらしいということがわかった。
向こうも俺の名前がショウであることと、旅人のようなものであることがわかったらしい。
俺は貨幣として流通しているのであろう、金貨や銀貨も欲しいのだが、どうにかしてアネッテの狐耳や尻尾をモフモフしたかった。
そんなことを考えていると、外から怒声が聞こえてきた。
俺とアネッテはすぐさま戦闘態勢に入る。
馬車から飛び出し状況の把握に努めていると、蜥蜴人間が十人位徒党を組んで馬車を襲っていた。
蜥蜴人間が馬に催眠魔術をかけて馬車を足止めしていた。
「召喚!!」
虚数庫にアクセスし、次元の隙間に潜ませていたミスリルソードとハンドガンを取り出す。
その様子に隣にいるアネッテは狐耳をピンと立たせ驚きながら、得物の大剣を構えるが力が入らないのか腕が明らかに上がっていない。
その様子を見ていた蜥蜴人間が2人程、ロングソードを振り上げながらアネッテと俺に向かってきた。
俺はアネッテの前に立つと片方の蜥蜴人間に対して
ハンドガンで三連射
45口径の弾丸が俺の魔力と、バレルに刻まれた魔術文字とが反応して、燃え盛りながら飛翔し、蜥蜴人間の鱗に穴をあけ、体内から蜥蜴人間の全身を火だるまに変えた。
もう片方の蜥蜴人間はその光景に驚きながらも、かなりの速度で接近し、俺に剣を叩きつけようとしていた。
クロスレンジに入り込んできた相手に、ハンドガンは役立たたないので瞬時に
「送還!!」
と唱え、虚数庫の中にしまいこみ、両手でミスリルソードを構え直す。
お互いの剣がガギンという音を響かせ交差する。
その強烈なインパクトは全身に強化魔術を張り巡らしていなければ押しきられていただろう。
鍔競り合いに応じていると、蜥蜴人間がグガァと咆哮を上げながら体をサイドにずらし噛みついてきた。
「!!シールドッ」
咄嗟に防御陣を敵の体に対して斜め方向に展開し攻撃を反らす。
蜥蜴人間がシールドにぶち当たり、勢い余って体を泳がせたところを振り向きながらミスリルソードで切り裂いた。
「グギャア!!」
断末魔の叫びを上げながら、蜥蜴人間は倒れこみ動かくなった。
「!!??!!」
背後で恐らく感謝の意味を持つ言葉が聞こえてきた。
振り返るともうほとんど上がっていない手に大剣を持ったアネッテが苦しそうにしていた。
アネッテは何かに急かされるように、前方で戦っている集団に加勢しようとする。
「おいっ待てって!!その腕じゃ無理だ!!」
俺が肩に手を掛けながら止めるが、アネッテはその手を振り払いながら加勢に行こうとする。
その様子を見た俺は彼女を止めることは不可能であると判断し
「召喚!!」
と虚数庫にアクセスし、長さが2尺程度で鋼製の太刀を取り出す。
それをアネッテに差しだした。
「使え」
アネッテは太刀を手に取り真剣な目で刃を見ている。
十分実践に耐えると思ったのか、うんと一つ頷き大剣を放り出し一目散に駆けていった。
「だから落ち着けって!!」
何が彼女をそうまでさせるのだろうか?
そう思いながらアネッテを追いかけていくのだった。