木精霊の恋
ふっと落ちるように私の仮契約者は眠りに落ちた。
そういえば私、この人の名前すら知らないのに今気づいた。
少しごわごわとした髪を梳く。
寝ている姿は子供のように無垢で、あの忌々しい蛇を倒した人間にはとても見えない。
ああ、私ほんとにこの人に恋してる。
感じたことのない胸の熱さを感じるのだ。
古代の英雄の如く颯爽と私のピンチに駆けつけてくれて私を救ってくれた。
まあ、ちょっとドジなところも庇護欲を掻き立てられる。
これが人間や皆の言う一目惚れというものだろう。
今まで精霊郷に招かれた人間とドリアードのカップルを見かけても、なんで人間のことなんか好きになったのだろう?と疑問に思っていたが、いざ自分の番となるとその麻薬のような甘美な感覚に酔ってしまっている。
先輩ドリアードが気に入った人間を連れ込む気持ちも今では理解できた。
それにしてもこの人間は何者だろうか?
見たこともない鎧を身に纏い、圧倒的な戦力で敵を倒し、私と同じ大精霊と契約している。
取りあえず次起きたら名前を聞こう。
そう思いつつ私は、自分でも驚くほどの優しい手つきで髪を梳き続けるのだった。
「俺の名前?そういえば言ってなかったか。俺の名前はショウだ」
「ショウね。これからよろしくショウ」
「因みに俺、主観的時間で1週間前に違う世界から転移してきた異世界人だから」
俺は自分の素性とこの世界で体験したことをかくかくしかじかと説明した。
「異世界?…へえ、そんなこともあるのね。だからあの変な鎧を着ていたのね」
「変な鎧じゃなくてあれは魔術外骨格といって、魔力炉を搭載し精霊と協力しないと動かせない魔術兵器だ」
「異世界にはそんなものがあるのねえ…後でちょっと見せてね」
「ああ。機体状況も見ておきたかったし別に構わないよ」
アクセリナが用意してくれた朝食を食べながら自己紹介等々を説明した。
朝食のメニューはキノコのシチューと、うっすら金色に光っているやたらと魔力を蓄えたリンゴだった。
シチューの優しい味が空っぽの胃に沁みわたる。
「ちょっとショウ。もう少しゆっくり食べなさい体に悪いわよ?」
思わずがっついてしまった。
「すまんすまん。このシチューはアクセリナが作ったのか?」
「ええそうよ。美味しい?って聞くまでもなかったわね」
既に空になった器をみてアクセリナが言った。
「美味しいよ。それにこのリンゴも蜜がたっぷりで凄く甘い」
「そうでしょうそうでしょう。私が毎日手塩にかけて育てたリンゴの木からとった果実だもの。栄養もたっぷり入っているから感謝して食べなさい」
ふふんと胸を反らせて自慢げに言う。
あっ顔が少し赤くなってる、照れているのか?かわゆい。
「食べ終わった?じゃあアムリタを…のっ、飲ませてあげるわ」
更に顔を真っ赤にさせアムリタを口に含もうとする。
「おいおい、俺もう自分で飲めるんだが…」
「こっこうした方が私の魔力でアムリタの効果が上がるんだから仕方ないでしょう?!ほら口を開けなさい!」
そう言いアクセリナがアムリタを口に含み口をもごもごしている。
一瞬、肉食獣のような目をして、アクセリナが口移しでアムリタを飲ませてくる。
永遠にも似た一瞬を経て唇が離される。
「お、おおおおお前一体何をする?!」
俺は盛大に動揺していた。
「別にいいでしょう?!治療行為なんだから!!それに役得でしょ?!ラッキーとでも思って受け入れればいいのよっ!」
お爺ちゃん、近頃の女の子は肉食系で困ってしまいます。