謎の男
「凄く………寝ていますね」
「そうですね…」
狐耳とその主人が言う。
「アネッテ、とりあえず馬車にその方をお運びして」
狐耳の主人が言う。
「わかりました、一番後ろの馬車に乗せます」
「負傷した兵士は前の馬車に、姫様は一番守り易い真ん中にお願いします」
「わかったわ、負傷している兵士が馬車に入りきらなければ、私の馬車に乗せても構いません」
「ですが姫様…わかりましたその様にします」
彼女はとことん優しく、それでいて頑固な性格をしているのを理解しているアネッテは、途中で言葉を切ってそう言った。
後ろの馬車にアネッテは謎の男を乗せる。
風体を見るに、種族はヒューマン、年齢はかなり若いだろう、恐らく成人を迎えてはいない。
細い体だが鍛えた体つきをしており、歴戦の戦士を思わせる。
服は見たことがないような光沢のある生地を使っており、各部の稼働域が非常に広くなっている。
それにエンチャントを施しているらしく微かに魔力の波動を感じる。
これだけ見ると帝国の暗殺者かとも思ったが、その子どもの様な無垢な顔で眠る姿を見ると暗殺者ではないと言い切れる気がする。
「寝顔を見ていると、とてもあのワイバーンを葬った者には見えないな、それとあの魔術、あのような大魔術は普通何人かの魔術師が、魔術陣を用いて行使するような手間の掛かる魔術の筈だが」
端から見ると怪しさしか目立たないが、大切な姫様を守ってくれた分のお返しはしようと思った。
しばらくした後に、ガタゴトと馬車は進み初めた。
馬車が揺れて少年が寝難そうにしていたので、少年の頭を膝に乗せた。
少年の顔を見ているとほんわかした様な気持ちがわきあがり、いつしかアネッテ自身も眠りにつくのだった。