団欒
俺は手早く適当に作ったチキントマトリゾットを皆に振る舞った。
湖の乙女亭の様な複雑かつ繊細な味とは程遠い、ワイルドな味だったが皆の反応はそこそこだ。
「マスター、おかわりです」
「はいよ。ちょっと待ってな」
アクアはこれまで見ているだけで食べられなかった俺の料理を嬉しそうに頬張っている。
「スティナ、アネッテも今日はご苦労様どんどん食べてくれ」
「これがお兄ちゃんの味…乱暴で野性的な味だけど美味しい。私もがんばらなきゃ」
もっくもっくとスティナは次々に口に放り込んで味を分析していた。
「ショウお代わりです。湖の乙女亭もいいですが、ショウの料理は何か癖になる味です」
アネッテも尻尾を振りながら嬉しそうに食べていた。
「マスター、この後はお風呂に入ってください。その間に食事の片付けと寝床の用意をしておきます」
「おおっ風呂があるのか?!」
こっちに来てから濡れタオルで体を拭く位しかできてなかったのでかなり嬉しい。
「マスターが料理している間にもう入浴する用意を整えていたのですぐに入れますよ」
流石アクア至れり尽くせりだ。
「じゃあ入ってくるよ。片付けはすまんが頼んだ」
「私達に片付けは任せてお先にどうぞ」
アネッテが食器を片付けながら言ってくれた。
「お兄ちゃんお風呂はあっちだよ。ゆっくり入ってきてね」
「応、ありがとな」
俺は意気揚々と風呂場に向かい、脱衣場で服を脱ぎ浴室に入った。
浴室の壁にはシャワーが取り付けられ、大きなバスタブが中央に置かれている。
洗い場にはボディーソープやシャンプーだろうか?液状の石鹸が置かれている。
前々から思っていたことだが、この国はかなり技術が発展しているようだ。
科学技術こそあまり発展していないが、上下水道はついているし、魔術を使った生活用品などを使えば現代日本とほぼ同じように生活できる。
まあいいとりあえずは風呂だ。
全身をくまなく洗い湯に浸かる。
少しぬるいな。手っ取り早く「加熱」の魔術でと…江戸っ子まではいかないが俺は熱い風呂が好きだ。
ふわはぁ…生き返るわぁ。
30分ほど湯に浸かり満足すると、風呂から上がり体を拭く。
用意されていた寝間着に袖を通して風呂場を出た。
「マスターいかがでしたか?」
「大満足だ」
ソファに座りながらアクアが差し出してきた水を受けとる。
「アネッテ一緒にお風呂に入ろう?」
スティナが提案していた。
「ああ一緒に入ろう」
「私も一緒にお風呂いいですか?」
風呂の使い方教えて貰うのだろう。
ほんの数日前まで精霊だったアクアは風呂に入ったことがないからな。
3人で風呂に向かっていった。
思えばアクアも不思議な存在になってしまったな。
半人半精
精霊なのに実態があり、匂いも有り食事もできる。
体に入ったもの魔力に変換されるが、酒には酔えるみたいだ。
後、どうもフレームと同一化する時しか、精霊体に戻れなくなっているようだ。
全て元の世界では聞いたこともない性質だ。
そうか、俺たちのことをスティナ達に話しておかなければな…
大分遅くなってしまってもいないか?まだ1週間位しかこっちに来てから経過していない。
旅人は旅人でも異世界から来た旅人だということも、アクアのことも、俺自身のことも。
「お風呂というものは気持ちが良いものですね」
髪を拭きながらアクア達が風呂からあがってきた。
「すまないが少し話がある。皆こっちに来てくれないか?」
俺は入れておいたアイスティーを手渡しながら皆をソファーに誘導した。
「異世界からですか…」
「お兄ちゃんが他の人と少し違うなって思っていたけど…」
「「まあ私達はどちらでもいいですけどね」」
まああの親に鍛えられていればそうなるよな。
「こっちの世界のこと、お兄ちゃん達全然知らないでしょう?私達フォローするよ♪」
「ショウ、異世界の武術に興味があります。また時間があるときに聞かせてください」
俺達は受け入れられた様だ良かった。
「それでお兄ちゃん。今日は誰と一緒に寝るの?」
「はい?」
なにが?
「言ってなかったっけ?今日からお兄ちゃん交代で誰かと一緒に寝るんだよ?」
え、なにそれ聞いてない。
「マスターが固まっているようなのでダイスで決めましょうか。マスターは先に2階の寝室に行ってください」
アクアがどこからか取り出したダイスで俺の運命を決めるのだった。