良いもの一杯 おいでよアルム中央市場
魔女の大釜は、多種多様な魔術用品を取り扱っている魔術専門店らしい。
俺はスティナと2人でそこにむかっていた。
「お兄ちゃん♪」
妹な嫁は俺の腕にしがみついてきた。
恥ずかしいのか微妙に顔をうつむかせて普段ぴんと立っている猫耳もへにゃっていた。
俺は腕にふよふよ当たる豊満な感触に歩き方がぎこちなくなる。
だって俺女の子にこんなに過剰なスキンシップされたことなんかないし、自然体なんか無理無理世の中のリア充はこんなことしながら町あるいてんの!?
「お暑いねブルー!!」「姫様頑張って!女は勢いよ勢い!」
俺達は道行く人にひやかされながら目的地までの道程を急いだ。
魔術専門店魔女の大釜
店内にはところせましと魔の品が置かれていた。
マンドラゴラの干物やバイコーンの角、多種多様のアダマンタイトのインゴットやミスリルを溶かしたアマルガム等の魔術金属、エンチャントされた武器や指輪、乳鉢やら蒸留器などの調合に使用する道具まで幅広い品揃えだった。
「どうお兄ちゃん?凄いでしょ」
「おおおぅ…凄い品揃えだな」
既に地球ではほぼ手に入らないような物まである。
「取り敢えず魔石とミスリル、アダマンタイトのインゴット、あと水銀も欲しいな」
「魔術金属はこっちかな?」
俺はスティナに案内してもらいながら店内を興奮しながら見ていた。
金がいくらあっても足りないぞこれは。
あのガラスケースに入っているのはフェニックスの尾羽か!?強力な火魔術、治療魔術の触媒となる博物館に所蔵されるような貴重なものがこんな小売店に!?値段は…高いが手がでない程ではない。買うか?買っちゃうか?取り敢えず消耗品を買い揃えて、余裕があれば買ってしまおう。
足りませんでした。足りないことはなかったが買ってしまうと塩と水だけの赤貧生活になってしまう。あっお米券あったな後で替えにいかなきゃ。
泣く泣く尾羽を諦め店をあとにする。
「スティナ、米屋は何処にある?」
「米?多分中央市場の八百屋さんに置いてあるとおもうよ?行く?」
「行く」
日本人としてごはんはソウルに深く結びついているのだ。
俺は任務で海外から帰ってきた時は塩むすびに豚汁を貪るように食べるのがジャスティスだと本気で思っている。
俺はスティナに腕を差し出す。
スティナはぱあっと太陽のように眩しい笑顔を浮かべると、抱きつくように俺の腕に飛び付いてきた。
おうふ、まだお兄ちゃん慣れてないから手加減してたも。
八百屋さんに着いた。
「らっしゃいお二人さん。どれにする?」
がたいの良い気の良さそうな店主が声をかけてきた。
「これ使えますか?」
お米券を差し出す。
「ん?使えるぞって、ブルーじゃねぇか。てぇと俺の手紙見てくれたんだな」
ふははと笑いながら嬉しそうにする。
「さあこっから選んでくれ!!」
前に3つほど米の山を作ってくれた。
2つはパエリアなんかに使う長粒種、驚くことに日本で食されている短粒種が1つその中にあった。
俺は興奮して店主に尋ねる。
「この丸いお米はどんな特徴がありますか?!」
「お前さんお目が高いな…取り敢えず落ち着け。そいつは粘りが強いタイプで噛むと米の甘味がふわっとくるのが特徴だな。俺のオススメだ」
「これください!」
「おう!そんなに喜んでくれるならこっちも嬉しい、本来10kgだがサービスで20kg持ってけ!!」
あなたは神か?
ホクホク顔で米を担ぎ上げ八百屋さんを後にする。
「お兄ちゃん、良かったね!」
「ああ、ここ最近でベスト5に入る出来事だった」
「そう?とにかくそろそろお家に行こう?」
「ああそうだな」
スティナは俺の腰に手を回して歩きだした。
どうも抱きつき癖の様なものがあるようだ。
鼻歌を歌いながら新居に向かう。
ある看板が俺の目の前に現れた。
「オーダーメイドも承ります ブラシ専門店 銀の尻尾」
「スティナここで待っててくれ!」
米袋を道の端に丁寧に置くと。
俺はブラシ屋の扉を開け、店内を物色し始めた。
「これだ!!」
陳列されていたブラシの山から一つ選び出し、カウンターの横においてあるオイルも一緒に購入。
この間約15秒まさに電光石火。
店主も驚いていた。
お遊びで一本上質なブラシを紛れさせていたのを見抜いたこの少年は一体何者だ?
「スティナ待たせたな」
「ブラシが欲しかったのですか?まあ全然待ってないので良いですが」
俺は幸福の絶頂で家路を急ぐのだった。




