大失敗隠し
翌朝
「ぐっおお…ぅ」
俺は人通りが多くなるであろう10時位に、病院を抜け出し町に繰り出していた。
アクア達は新生活に向けて家や家財道具を見に行っている。
俺は、痛む身体に鞭をうちリハビリを兼ねて町を散策していた。
昨日の内にアクアに買ってきて貰った服を着て、自然と周囲にその存在を紛れさせていた。
ここは獣人の国だが、観光客も多くヒューマンも沢山いたので、俺がライオンブルーとバレることもなく、「やたらと自然の多い中世のヨーロッパの街」といった街並みを小一時間程探索していると、一軒の宿屋がみえてくる。
「湖の乙女亭」
昼はランチでもしているのか、今日のメニューと書かれた立て看板を出している。
俺はもしやと思い扉を開けると
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」とやたらとスタイルのいい御上さんが微笑を浮かべ歓迎してくれる。
俺は今日の定食と注文しながらカウンターに腰をかけた。
店内は気持ちのいい日差しが差し込み、趣味のいい木製の調度品が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
客層は下は子どもから上はおじいさんまで、席は7、8割りがた埋まっていた。
客は静かに会話をしながら、料理やお茶を楽しんでいる。
これは当たりを引いたな、と思っていた。
御上さんが料理を運んでくれる。
「日替わり定食の若鶏のニンニク風味とトウモロコシのポタージュ、パンはお代わりが自由になっておりますので、必要なら私にお申し付けください」
ごゆっくりどうぞと、料理を置いた。
いただきます
メインの焼いた若鶏にナイフをいれると肉汁が溢れだし皿を汚す。
フォークで口に運ぶと旨味が口一杯に広がった。
旨い。素材の味を引き立たせるような味付けも日本人の俺には非常に美味しく感じる。
ポタージュはトウモロコシの甘味と生クリームのまったりとした風味が見事にマッチしており、パンが良く進む。
手を上げ御上さんを呼ぶとお代わりのパンを持ってきてくれる。
がつがつと次々に料理を口に詰め込む俺はマナーが悪いだろう。
だが、この料理を前にしてお行儀良く食事をするなど堪え性のない俺には無理だった。
食べ終わり一息ついていると、食後の紅茶を持ってきてくれた。
食後の紅茶になります。
そういい、立ち去ろうとする御上さんに俺は声をかける。
「あの、料理おいしかったです!」
「ありがとうごさいます。私もあんなにも美味しそうに食べていただけて嬉しくなりました」
見られていたらしい少し赤くなりながら話を続ける。
「あのランスロットってお子さんがいませんか?」
あら?と御上さん
「確かにランスロットは私の息子ですが、どうされました?」
「いや実はファンレターを貰いまして少し話がしたくて」俺はライオンブルーだと御上さんに明かす。
「あら?あらあらあら!良く見れば蒼騎士様じゃありませんか!あのあと確かに息子が手紙を書いておりました。少しお待ちください、呼んでまいります」
少女のようにぱっと顔を明るくし驚いた御上さんが、料理を下げつつランスロット君を呼びに行った。
後でこの店のお客さんから聞いた話だが、彼女、未亡人らしい、さぞかしもてるであろう。
ランスロット君が目を輝かせて俺がいる席に来た。
「手紙ありがとう。君も頑張ってお母様を守れるように強くなりなさい。でも、決して無理をしてはいけないよ」
昨日アクアに変態行動をしていた男が偉そうに言った。
「うん僕がんばるよ!」
それはそうと、と俺はこの店「湖の乙女亭」に入った最大の目的を果たす。
「ランスロット君、君にはアーサーという友達はいるか?」
「アーサー君?いつも一緒に剣の鍛練をしているけど…」
俺はガシッ!と彼の肩を掴むと
「いいかい?君は絶対に女性にだらしなくなってはいけないよ!」
だらしない俺が言うのもなんだが。
「君は将来もてるだろうけど、特に人のものを捕ったりするのは厳禁だぞ?!」
俺はまだ10歳くらいの少年になにを口走っているのだろう?
ランスロット君は何を言っているのだろう?と首を傾げていたが「うん!!」と元気よく返事をしてくれた。
「アーサー君とは仲良くな」
「うん!!」
あと忘れてた!!とランスロット君
「ライオンブルー、サイン下さい!!」
色紙とペンを差し出してくる。
「召喚!!」
俺は何を血迷ったか虚数庫にアクセス、一振りのアダマンタイト製の片手剣を取りだしありったけのエンチャントを施すと、彼に手渡す。
「君にやろう。剣の名前はアロンダイト」
その様子を見ていた御上さんは俺を止める。
「そんなに高そうなものいただけません!!」
「いや未来の騎士と美味しい料理のお礼です。受け取って下さい」
俺は席を立ち、店から逃げる。
俺、今気付いたのだけれども、リハビリのために外に出ただけなので、この世界のお金持ってなくて無一文でした。
食い逃げしただけだった。
また今度もってきます。