謁見
3時間ほど馬車が通ることのできる、ギリギリの道幅の街道を進んでいると、急に森が開ける。
「アルム精霊王国にようこそ ショウ様、アクア様」
王都アルムには城壁が存在しなかった。
ドリアードが結界を張り巡らしてあるのだろう。贅沢に魔力が使われ、確かにこれならドラゴンが1ダース襲撃してきても、破られることはないだろう。
その自然と見事に一体化した都市に入るために、1ヶ所だけ結界が開いている石造りの門に向かう。
こちらの到着を既に知っていたのだろう。
兵士が街道の両端に整列しており、その後ろから都市の住人達が旗を振りながら「スティナさまお帰りなさい!!」と叫んでいる。
馬車から降りて、露店の物価を確かめながら歩いていると、20分ほどで王城にたどりつく。
「準備がありますので、客室にて30分程お待ちください」
アネッテがそう言いながら客室まで案内してくれた。
客室で俺とアクアは2人でアルムについてどう感じたか話し合っていた。
生活必需品の物価が安い。
スラムなどが見た範囲だが、存在しているようには見えない。
なにより、スティナの帰還を心から祝っている住人の姿を見るに。
とりあえずの拠点にしてもいいのではないかと、アクアと2人して同じ結論に至った。
そうこうしていると、スティナが俺達を迎えにきた。
「準備が整いましたので、謁見の間にお願いします」
石造りの頑丈な回廊をしばらく歩くと、木製の大きな扉が現れる。
恐らく謁見の間であろう。
よしと気合いを入れていると、扉の両端についていた兵士が重厚な扉を開いた。
「良くもどったスティナ!!」
「心配しましたよスティナ!!」
はしっとスティナに抱きつく。
「お父様、お母様!!」
俺達は展開についていけず完全に置き去りにされていた。
アルム精霊王国が国王レオン=アルムは、親子のスキンシップを終えると俺達に頭を下げつつ、礼を言ってきた。
「娘を助けてくれたようだな」
仮にも国王がとる態度ではなかった。
後から聞いたのだが、アルム精霊王国には貴族だとか、平民だとか、そういう身分というものがないらしい。
国王とは名ばかりのボス一家とその仲間達といった、ある意味理想的な社会を形成していた。
そのライオンの様な鬣がついている顔をガバッと上げると、ガハハと豪快に笑いながら、俺の肩をバキバキと叩きつけてきた。
とんでもない力である。
というか、俺の服に掛かっている防御陣を打ち抜いていた。
「褒美をやろう、何が欲しい?」
話の展開が早い。
ええと、と言いながら俺は予めアクアと相談していた通りに答える。
「多少のお金と図書館を利用させて下さい」
「金については好きなだけやろう。だが、図書館は我が国の国民しか利用できん規則でな、許可できない」
当てが外れていた。
しかしと、微妙に笑いながら言葉を続ける。
「報告で聞いたが。お前強いらしいな。いまから俺が指定する相手と戦い勝てば、利用できるようにしてやろう」
どうも話がきな臭くなってきた。
ここは断ろう。
そう思って辞退しようとすると、国王の後ろに控えていた極妻にしか見えない后さんが。
「副賞として、アネッテとスティナの先祖がえりを触る権利もついてきますよ」
「その勝負受けましょう!!」
反射的にそう答え、アクアに肘鉄を貰い悶絶した。