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機甲魔術師の異世界転移  作者: タングステン風味
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リゾート①

「翔君!!気をしっかり持って!いい?刀を地面に置くのよ?」


「あれ?僕?」


葵さんに声を掛けられて我に返った。


えっと確か…そうだ、刀を見つけて黒に言われるままに抜いたんだった。


そこからの記憶は曖昧だったけど、お爺ちゃんと戦っていたような気がする。

あっ!葵さんの刀を勝手に使っちゃ駄目じゃないか!


「ごめんなさい葵さん。鞘をいただけますか?」


葵さんは黒と白さんが収められていた2本の鞘を手に持っていた。


「意識があるの?」


「はい、さっきはどうやら暗示だとか催眠の様なものに掛かって刀を振るってしまったみたいですが」


葵さんが鞘をくれたので黒と白さんを鞘に収めた。


「坊主は確かに一度俺に飲まれたが今はちゃんと自らの意志で行動しているぜ。にしてもこの坊主、とてつもない使い手になるぜ。まだまだ粗削りだが葵相手にいいところまでならいくと思うぜ」


「なーに自慢げに話しているのよ?!最後の一撃なんて、大量の魔力を消費して放ったものだったじゃない!!坊や大丈夫…って、何で平気そうにしていられるの?!」


「何でって…それは魔力切れになっていないからだけど」


「葵!あの岩と斬られた熊を見てご覧なさい!!こんな魔力量を放出したら、普通一発で昏倒するわよ!!」


葵さんは岩の断面を指でなぞり、不幸な熊の死体の傷をじっくりと観察している。


「凄い切れ味ね。私でもこんな出力で剣閃をとばせるかどうか…」


「でも僕のお爺ちゃんはこれよりすごいことを魔力なしでやるよ?」


「坊主の爺さん本当に人間なのか?」







「クマ?ショー、晩御飯?」


葵さんに刀をごめんなさいをしてから返していたら、イグニスさん達が脱衣所から出て来た。


「えっと、はい。殺してしまったので食べます。葵さんナイフか何かありますか?」


「あるわよ?血抜きしないといけないけどそれは」


「はいはい私の出番ね」


ルイザさんは、熊に手をかざして静かに集中し始めた。


「磁力よ」


土魔術で周囲の磁場に干渉、血中の鉄分に作用させて熊の血液をすべて抜き去ってしまった。


「うわあ、魔力コントロールがすごい精度ですね…」


血抜きが終わったので葵さんに貸してもらったナイフで不要な部分を取り除いた。

これで果物だけの食生活から抜け出せるだろう。


「で、イグニスとショウは私達を夕食に招待してくださるのかしら?」


「そうですね…イグニスさんがよければ」


血抜きもして貰ったし、何よりイグニスさんと二人だけでは熊一頭を食べきれないのでむしろこちらから誘おうかというところだった。


「大丈夫。獲物はショーがとったものだから好きにすればいい」


「なら場所は提供しましょう。どうせイグニスの家、というか洞穴には碌な調味料もないでしょうしね」





イグニスさんの洞窟から見えた僕が流れ着いていたという砂浜から、少し離れたところにある浅瀬に連れられて来た。


「あの?なぜこんなところに?」


ルイザさんの口振りからして料理とかが出来るような場所に案内してくれると思っていたのだけど。


「ここには結界が張ってあって外から中の様子は見えないし、結界内の物は劣化しないようになっているのよ。さ、こっちへ」


ルイザさんは懐からアンティークのような古めかしい鍵を取り出すと、何もない空間に差し込み鍵を回した。

すると、何もないように見えていた浅瀬に桟橋と水上コテージが現れる。


「うわぁ凄い凄い!!こんなに大がかりな魔術見たことがないよ?!」


「喜んでいただけて何よりね。さ、その桟橋の前まで結界になっているから熊はそこに下しておいてね」


担いでいた熊を下してルイザさん達についていく。

海は透き通っていて色とりどりの魚が泳いでいるのが見えるし、結界内は温度や湿度の調節もされているのかすごく過ごしやすくなっていて正に至れり尽くせりだ。


「イレーネ~、葵~、料理をお願いね?私が手伝うと…わかるでしょ?大人しく釣りでもしているわ」


「「(コクコクッ!!)」」


ルイザさんが料理を手伝うとどうなるのだろうか?僕の印象からして何でもできそうな人の様に思えたけど、どうやらそうでもないらしい。お姉さんたちはしきりに頷いてルイザさんの戦線離脱を許可していた。


「イグニスと、えっと…ショウ…君はどうするのかな?私とアオイは今から料理にかかるけど」


「僕は手伝います。熊を解体したり料理の方も手伝えると思うので」


「私は…ルイザと一緒に釣りする」


イグニスさんはルイザさんの後をぱたぱたと小走りで追っていった。


「ショウ君ってその年で何でも出来るのね…じゃあ、お姉さんたちと一緒に晩御飯作りましょうか」





「葵さんさっきはすみませんでした。勝手に刀を触ってしまって」


葵さんに貸してもらったナイフで熊を解体しながら、もう一度さっきのことを謝った。


「いやこちらが全面的に悪いのよ。黒は魔力を持っているから簡単な魔術が使えるのよ。本来は刀の持ち主の精神を操作して戦闘を有利に運ぶためのものだけれど、黒はあの性格でしょう?それを悪用するのよ」


成程、催眠にかかっていた時には気にもならなかったけど確かにあの時は僕はおかしかった。


「それにしても解体なんてどこで覚えたの?」


「自分で覚えたんですよ…秘境で生きるためにはこのくらいできないと…死にますからね」


僕の目の前にはジャングルや切り立った崖、雄大すぎる河がフラッシュバックしている。

軽くトラウマになっていた。

お爺ちゃんもあの時はやり過ぎたって言ってた。


「随分とその苛烈な人なのね。というかもう終わったのね。お肉を厨房のイレーネのところに持って

行きましょうかとその前に」


急にうずうずと何か落ち着かない様子になった葵さんが目の前から急に掻き消える。


「翔君~~!!もう我慢できない!!すりすりすぅーはぁあ~。なんでなんでなんでぇ、こんなに愛らしいのかなぁ~♪」


「っむぅ。あの葵さんちょっと…」


解体した時についた熊の血が手についているから葵さんを振り払うことが出来ない。


「撫でり撫でり、すべすべー、はぁー癒されるわー」


「アオイ…騒がしいから来てみれば…ほらショウ君を放しなさい。ごめんねショウ君。ほらアオイ!!」


イレーネさんが葵さんを僕から引き離してくれた。


「いやあ、翔君~翔君~」


「貴方が可愛いもの好きなのは知っていましたが、ここまででは無かったでしょう?ああもう!!」


イレーネさんは面倒になったのか、再び僕に組み付こうとする葵さんに背後から尻尾でビンタして昏倒させた。


「あの大丈夫ですか?ちょっと鳴ってはいけない音がしていましたが…」


叩いたというより、ぶちのめした音がしていた。


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