黒と白
脱衣場に戻って、色とりどりの服やら下着やらを見ないようにしてイグニスさんから貰った服を着る。
にしてもあのお姉さん達には驚いた。
頭に角だとか、下半身が蛇や、蜘蛛だとかそういった丸っきり人外の存在は、伝説上でしか見かけたことがなかったからだ。
「あ、あれは?!」
着物が入っている籠の前には大小が置いてあった。
お爺ちゃんの使う刀、凪は僕の技量じゃまだ無理だといって、代わりにミスリルソードを貰ったんだけど、いつかはお爺ちゃんみたいに岩とか鉄の固まりを魔力なしで真っ二つに斬ってみたい。
「おっ!俺を使ってみたいか坊主?」
「ちょっと黒!」
「るせえな白!」
「!?!!」
突然刀が淡い光を発したと思ったら刀が喋り出した。
「あ、あの?刀さんは喋れるのですか?」
「おうよ!で坊主ちょっと抜いてみねえか?」
「黒!こんな小さな子どもに何言っているかわかっているの?!私たちは武器、殺しの道具なのよ?!」
どうやらこの刀達の名前は黒と白というそうだ。
黒は男性で本差、白さんは女性で脇差しのようだ。
「いい?坊や黒に惑わされたら駄目よ?ってちょっと!!」
黒は僕の方にぴょんと跳ねてきたので思わず僕は受け止めてしまった。
「ほら柄を握ってみなって!!」
言われたとおりに鞘を片手で支えながら、刀の柄の部分を握る。
何だろう、凄くしっくりくる。
重いけど身体強化の魔術を利用すれば何とか扱えそうだ。
刀を使用してお爺ちゃんと稽古したことは一杯あったけど、その時の刀よりも断然握り心地は黒の方が上だ。
「ほほー!こりゃいいや!!葵には悪いがこの坊主、相当にすげぇぞ!!ほら白も手に取ってみなって!!」
「え?!ちょ、ちょっと!!」
僕は何かぼうっとしてしまって黒に言われたとおりに白さんを手に取ってしまう。
「ひゃあ!!これ?!、んっ///」
「な!すげえだろ?!ほれ坊主俺を抜いてみな!!」
鯉口を切り、黒を鞘から抜き放つ。
「ほう、扱い方がわかっているじゃねえか、っておい?」
続けて脇差しの白さんを抜き放ち二刀を中段で構えた。
「ちょちょちょっと?!!危ないわよ?!戻しなさい!!」
「おい坊主!いくら何でも俺を片手で扱うのは無理だぞ!!」
練習ではいつも二刀を使ってお爺ちゃんと戦っていたからちゃんと扱える。
もう少ししたら一刀に戻していいってお爺ちゃんが言っていたけど、僕はこの二刀流の戦い方の方がしっくりくるからこのままでいいかなと思っている。
脱衣場では狭いので外に出た。
「すぅーーふぅー!!…」
僕の目の前にはお爺ちゃんが凪を正眼に構えて立っている。
そう仮定して、見えないお爺ちゃん相手に黒と白を振るう。
最小限の動きでお爺ちゃんは、僕の攻撃を躱し、時に受け流し、一向に僕の刀がお爺ちゃんの身に届くことはない。
「おめえは一体どんな化け物を想定して戦っていやがるんだ?!ちょおうをわああ?!」
シールド、爆破のコンボで空中を跳ね回り、あるいは地面を滑り、360°全ての角度から黒と白さんを振るうが、心を読まれているのかと疑う位全て先読みされて空を切り続ける。
ひじ打ち、膝蹴り、金的に、体当りと斬撃の合間に振るう体術による打撃は全て柔の術で封殺され打撃力を殺された。
「きゃああああああ!!!!!!」
意表を突いて魔術で白さんに紐を付け投擲、お爺ちゃんもこれには驚いたのか、バランスを崩す。
勝機!!
白さんを引き戻し、左手に収めて体全体を捻り、全身のバネを使って空中から渾身の一撃を叩き込む。
「な?!」
態勢を崩していた筈のお爺ちゃんがいない?!
魔力を込めた袈裟切りの一撃はお爺ちゃんの後ろにあった岩をバターのように切り裂き、岩の陰から僕を虎視眈々と狙っていた野生の熊を斬り捨てる。
すっと首筋に当てられる冷たい殺気。
どうやら今回も僕の負けだったようだ。




