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機甲魔術師の異世界転移  作者: タングステン風味
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自己紹介

どうみても人間ではなかったけど、瞳に理性や知性といったものを感じたし、何よりイグニスさんの友達らしいので魔術を解除した。


「あの、すみませんでした」


僕があやまると頭に角が生えたおおきな黒髪のお姉さんが声をかけてくる。


「あらあらあらあら、随分と小さくて…か、可愛い?!…きゃあ~~!!なに!なに!この男の子!!」


見事な瞬歩で僕の間合いに入ってきて抱きしめてきた。


速い!!!


「んむむ?!」


柔らかな感触が僕を包み込む。

拘束から逃げ出そうとするが、うまく力を逃がされいいようにされてしまう。

この人?間違いなく僕より強い。


「イグニスちゃん!!この子どこで攫ってきたの?うわー抱き心地いいー、魔力も私好みー」


「失礼攫ってない。砂浜に倒れてたから助けた」


魔術を使えばどうにでもなるけど、イグニスさんの友達だから傷つける訳にもいかない。

なんとか体術で!!


「あらら?抜けられちゃった。この子何者?結構本気でやってたのに」


「あの。その前に場所を移すか、前隠しませんか?」


蛇の下半身を持っている気弱そうなお姉さんが小さいけど良く通る声で提案した。

僕は咄嗟に腰に手ぬぐいをを巻きつけて応戦していたけど、確かにお姉さんたちは、その、何もつけていない。

僕は急に恥ずかしくなり、顔を背けた。


「なーに、言ってんの?こんな人間のちっちゃな子どもに。ほら温泉に浸かりながらイグニスに説明して貰いましょう」


僕が魔術の対象にした気配が異様なお姉さんが掛け湯をして温泉に浸かった。


「ショーも戻ってくる。風邪ひく。ほらここに来る」


ぱんぱんとイグニスさんはここに来いと近くを叩く。


「え?はい、失礼します」


かなり気恥ずかしかったけど、僕はイグニスさんの隣に。


「あー!イグニスちゃん、その子独り占めにしようとしてる。私もー」


「えっと、私はこちらに」


黒髪のお姉さん、僕、イグニスさん、気配がおかしいお姉さん、蛇のお姉さんの並び順で温泉に浸かった。


「イグニス、説明してくれる?この子誰?」


「じゃあ自己紹介。ショー」


「はい、僕は相羽翔、魔術師です」


「相羽翔君?名前からして私と同じ東方の大和出身ですよね?」


黒髪のお姉さんは名前から僕の名前に心当たりがあったようだ。

でも東方?大和?確か古い言葉だったはず…


「いえ、日本という国です」


日本という単語を出すとさっきまで興奮した様子の黒髪さんが、もの凄く興奮した様子になった。


「ニホン?!今、日本と言ったわよね?!君もしかして稀人まれびとなの?!」


「待つ。先に自己紹介」


「え?!ああ、私は一条葵いちじょうあおい。大和出身の鬼人族よ。…少し…考え事があるから先に皆自己紹介して?」


途端に一条さんは静かに考え込んでしまった。

どうも嫌な予感がする。

マレビトというのは少し聞いたことがある。

確かコミュニティの外から来た人のことをそう呼んだはずだ。

ただ、現代は科学技術が発展して世界が狭くなり、そういった概念自体が廃れている。

マレビトにはもう一つの意味がある。

それは、現世の外、常世等の異界と呼ばれるところからきた来訪者としての意味。


「じゃあ、私ね。私はアラクネのルイザ。君、ショウだっけ?ショウは私の気配がおかしいことに気が付いてたみたいだけどそれは正解よ」


立ち上がって広い湯船の真ん中に行くと眩い光がルイザさんを包む。


「何?白い蜘蛛?」


ルイザさんの下半身は大きな蜘蛛の姿に変わっていた。

白く光る装甲の様な甲殻は純真で神聖。

蜘蛛といえば不吉なイメージだけど、ルイザさんからはそういったネガティブなものは一切感じない。


「人間にこの姿を見せるのは数世紀ぶり。ちょっと大きいし、よからぬ事をしようとする輩がいるから普段は隠しているの。でもショウはイグニスが信用しているみたいだし、何よりその無垢で清らかな魂はまるで春風のよう。だから見せてあげてるのよ。光栄に思いなさい」


正体を見せてくれと頼んではいないけど、どうやら悪い印象を与えたわけではないみたい。

もう一度ルイザさんが輝くと人間の足に戻った。


「龍人族のイレーネです。ルイザとは同郷でここより北の大山脈の出身です。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。イレーネさん、ルイザさん、一条さん。みなさんはここに住んでいらっしゃるのですか?イグニスさんから、ここは無人島と聞いていたのですが」


「ここには今朝来たのですよ。この島は私達のような亜人専用のリゾート地で、温泉や狩り、海水浴が楽しめる知る人ぞ知るという感じの島なのです。君の事を詳しく教えてくれますか?」


僕は、これまでの経緯を全て話した。


「ちょっとお姉さんたち話があるの、翔君は先に脱衣所で待っててくれるかな?すぐに終わるから」


ずっと何かを考えていた一条さんが僕の話を聞いて何かを確信したみたいだ。

多分僕に関する何か良くないことだろう。


「はい。着替えて待っています」







「で、話って何?あの坊やに聞かせたくないみたいだけど」


「あの子、稀人で間違いないと思うわ。つまり異世界人。日本という地名は一般的には知られていないの。大和を建国した私のご先祖様が異世界人だったのだけれど、その人の言ってた言葉なのよ。それで、翔君は一人でこちらに来た可能性はかなり高いわ。時空を移動するときに使用される魔力は途轍もないものらしいの。それこそ霊脈が蓄えてる魔力が枯渇するほどに…ね。あと、帰る手段は見つかっていないのよ。ご先祖様が探したみたいだけど…」


「じゃあショウ君は天涯孤独ということですか?あの年齢で?」


重苦しい空気が漂う。


「イグニスちゃんの所にいるみたいだけど、これからどうするの?あの子、あなたには手が負えないかもしれないわよ?それに今夜にでもここが別世界だと気づく筈よ?向こうは月が二つないらしいから」


「怪我が治るまでは一緒にいる。けど、その後は…わからないけど力にはなりたい」


「あの、ショウ君は多分6歳位ですよね?そんな子供が異世界に放り込まれて、親御さんにもう会えないとわかったら、いくらショウ君があの年齢にしては異常に賢いし、強さも大人の魔術師でも太刀打ちできない、でも精神はまだ…」


「なるようにしかならないわよ。とにかく坊やはあの何もないイグニスの家に住んでいるのでしょう?それをどうにかするのが先じゃないかしら?寝床は粗末、食べ物はどうせ果物とかだけでしょう?人間はちゃんとバランスよく食べないと簡単に体調を崩して死ぬわよ?」

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