波乱万丈
イグニスさんは果物を山ほど用意してくれていた。
ベリーの様なポピュラーなものから、見たことがない色彩の曲がりくねった果物、すっぱいもの甘いものと、良くこんなに集めたものだ。
「イグニスさんは食べないのですか?」
さっきから僕ばかり食べていて居心地が悪い。
「私は食べなくても生きていける。それに(メインディッシュの前にお腹いっぱいにしたら勿体ない)…し…」
もごもごと小さく何かを言っていたけど僕には良く聞こえなかった。
「ショーもっと食べる。食べて早く元気になる」
もう結構お腹が膨れてきたけど食べたら嬉しそうにしてくれるので、お腹一杯まで詰め込んだ。
「ご馳走様です。美味しかったです」
僕がそう言うと、あまり表情を変えずに話をするイグニスさんが、にへらと表情を緩める。
「そう?なら良かった。少し休憩したら外に行く?温泉湧いてる」
イグニスさんの提案は願ってもない事だった。
汗や汚れで汚くなっていたし、きちんと周囲の様子も見ておきたかった。
「はい。行きます。僕は食休みしなくても動けるように鍛えていますので、すぐにでも出発できます」
「ついた」
森を15分ほど歩くと小屋と木で出来た柵が見えてきた。
木製の柵だが、かなり強固な防御魔術を付与されているみたいだ。
「小屋で服を脱いで入る」
…小屋の入り口は一つしかない。
「ここは混浴…なのですか?」
「当然、温泉だから当たり前」
「あの、イグニスさん。僕、イグニスさんが出るのを待ってから入ります」
混浴は少し気恥かしい。
「??私がいないとモンスター寄ってくる。だから一緒に入る」
イグニスさんが僕の背中を押して小屋に押し込んだ。
「服、脱ぐ」
イグニスさんはばさりと服を捲り上げて一気に脱いでしまった。
「あの?!」
少しだけどイグニスさんの真っ白な肌が見えてしまった。
僕は後ろを向いてイグニスさんから目を反らす。
「?何してる。早く脱ぐ」
「ちょっと?!」
僕の服に手をかけてこようとしてくる。
思わず手を払いのけてしまった。
「!!…温泉嫌い?でも、傷の治り早くなる。だから、頑張って入る」
一瞬傷ついた顔をしたイグニスさんが、聞き分けのない僕を優しい声で諭してくれた。
「その、イグニスさんや温泉が嫌いな訳じゃなくてあの、恥ずかしいだけです。だから、先に入っていてください。すぐに僕も入りますから」
「嫌われたかと思った。私も強引だった。ごめん」
イグニスさんが、温泉に繋がる扉を開けて外に出たのを、音で確認してから服を脱いだ。
脱衣場を見回すと手拭いがあったので、それで前を隠しながら温泉に繋がる扉を開けた。
「ショー、かけ湯してから入る。手拭いはお湯につけちゃダメ」
「は、はい」
かけ湯をして、イグニスさんから少し離れたところから温泉に入った。
びりりと傷口が痛んだがこのくらいの痛みは慣れているから、…問題はない。
「ふ、ぅ、温かい」
温泉は丁度いい湯加減だった。
しばらくの間、無言で温泉を楽しむ。
「ショー、魔力が欲しい」
「え?はい。いいです…よ?」
どういう風に魔力を受け渡しするのかは知らないけど、約束だったので反射的に答えてしまった。
「ん。そこの出っ張りに腰をかけて」
言われた通りにした。
途端にイグニスさんは獰猛な気配を漂わせ、僕に近づいてくる。
「あの?ん?!」
僕の体をぺろぺろとイグニスさんが舐める。
「ショー、これは治療も兼ねてる。温泉でやると効果が上がる」
顔をあげてそれだけ言うと一心に僕の体をまた舐め始める。
「あ、あ、くすぐったいですっ」
「我慢する」
10分ほど舐め回されても、まだまだやめてくれる気配がない。
その時、脱衣場から魔力の波動を複数感じとった。
「!!!」
イグニスさんを振り払い魔術を唱える。
「火よ 敵を打ち砕く力と成れ フレイムシュート!! ホールド!!」
50発の火の玉が体の回りに展開され、いつでも発射できるようになった。
「!!ショー?!」
「下がって!!何かが気配を隠して脱衣場に隠れてる!!」
敵は隠れるのをやめたのか扉を開け放った。
「動くな!!」
威嚇で空に向けて火弾を打ち上げる。
「ちょっとちょっと!!イグニス!?…じゃない?誰?え?人間の子ども?!」
湯気でよく見えないけど人間みたいな気配の影が3つ現れた。
「ショー!!敵じゃない!!落ち着いて!!」
風が吹き湯気が晴れる。
「女の人?いや、少しちがう?」
先頭の大人の女の人は、人間みたいだけど気配に違和感がある 。
後ろの大きいお姉さんは、頭に2本角がはえているし、その横のお姉さんも下半身が蛇みたいになっている。
「ショー、その焔を消す。大丈夫。私の友達」




