再び、目覚め
ぺちゃ、れる、れる、れー、ちゅ。
確か僕はイグニスさんに、傷を負って拾われたんだった。
「イ、イグニスさん、恥ずかしいです」
「起きた?でも、ここには薬なんてものはないから私が直接舐めて治さないといけない」
手を握りしめたり、開けたりする。
魔力も充実しているし、動けそうだ。
「イグニスさんどいていただけますか?」
立ち上がらないといけなかったし、イグニスさんと触れ合っていると恥ずかしかったので、お願いしてどいてもらった。
「重かった?ごめん」
「いいえ、大丈夫です。よっと」
干し草に布をかけた急ごしらえのベッドから立ち上がって軽く跳ねてみたけど、特に問題はないみたいだ。
「ショー!!まだ傷治ってない」
「これくらい大丈夫だよ。それより、お爺ちゃんは来ていないみたいですね」
お爺ちゃんがいるのなら、転がり込んだ僕の不始末を謝りに来ていると思う。
「昨夜、島を見回ってみたけど誰もいなかった。それと、外はモンスターがいるから危ない」
モンスター?
「えっと、モンスターは秘境と発展途上国くらいにしかいなかったと思うんですが、ここにもモンスターがいるのですか?」
不思議そうに僕を見ているイグニスさん。
「モンスターはどこにでもいる…オークとかダイアーウルフとか、サイクロプスとか」
「…少し外に出ます。このたたまれている服と靴を使わせていただいてもいいのですか?」
「勿論いい、外へは…、私もついて行けば大丈夫。一緒に行く」
洞窟から出ると、眩しい太陽の光が僕の目を焼いた。
ここは周りより少し高い所にあるらしく、周囲の状況が良くわかる。
眼下には森、背後には高い山、森より少し行ったところには砂浜と海が見える。
「昨夜も言ったけどここは無人島。しかも、モンスターも一杯いる。だから、あまり出歩かずに傷を治すといい」
「…そう、みたいです」
無属性の身体強化魔術で視力を強化すると、鬼みたいな生き物とか、人間より大きい虫とかが見える。
野生の熊ぐらいなら戦ったことがあったけど、モンスターとは戦ったことがないから、少し不安だ。
野営の陣地を作ろうにも、道具もないし、資材の調達も難しいだろうから、お爺ちゃんが迎えに来るまでイグニスさんにお世話になろう。
「あの、イグニスさん。僕はどの様な状態でイグニスさんに発見されたのでしょうか?」
「昨日、あの砂浜でショーは倒れていた。だぼだぼの黒い服を着てた」
だぼだぼの黒い服?そんな服を持っていた覚えはない。
それに、漂着していたとなると、なにかしらの事件に巻き込まれている可能性が高い。
「服みる?」
「はい、お願いします」
服に何か手掛かりがあるかもしれないので早速見せてもらおう。
「こっち」
イグニスさんは僕の手をとり、洞窟の入り口からは死角になっていた物干し台に僕を連れていった。
「これ」
これは、…お父さんが仕事で着る様な服だと思う。
強化繊維だし、防御魔術も掛かっているから。
ポケットには、何も入っていないな。
「多分これは、僕が知っているのとは違うけど、機甲魔術師のパイロットスーツだと思う」
「機甲魔術師?…ショーは時々変なことを言う」
おかしい。
機甲魔術師なんていうのは、全世界的に知られている。
たとえ精霊であっても単語ぐらい知っている筈だ。
僕が知っている限りの知識をイグニスさんに聞いてみたけど、電話や飛行機、ロボットあらゆる科学技術のことをイグニスさんは知らなかった。
あれ?そういえば僕、古代精霊語喋ってる…?
少しだけ学園の授業で聞いただけの言葉を、知らず知らずの内に話していた。
余りにも自然だったので気付かなかった。
昨日から水しか口にしていなかったから、お腹がぐぅと鳴り空腹を訴え始めた。
とりあえずお腹に何か入れないと。
「お腹空いた?」
「はい、昨日から何も食べていないですから。すみませんが何か食べ物をいただけませんか?後で狩りをしてお返しします」
「そういうのはいい。あっ、……ショーはここに住む?」
「はい。しばらくの間お世話になっていいですか?」
「じゃあ交換条件。ここにいる間は魔力を少しわけて欲しい。滲み出ている分でいいから」
そういえば精霊は魔力を欲しがると聞いた覚えがある。
「はい、そのくらいでしたら大丈夫です」
「契約成立。食事にしましょう。昨日採ってきた果物がある」




