目覚め
ぺちゃ、ぺちゃ、れー、ずず。
何かぬるりとした感覚と水の音に似ている変な音で目が覚めた。
僕より大きな女の子が馬乗りになって、僕の体を舐め回している。
「ひっ!!」
僕は恐怖で声をあげてしまい、女の子は僕が起きたことに気づいた。
「ん、恐がらせた?ごめん…君が美味そ、…傷を治療をしていた。君の名前は?何処から来たの?」
今なにか恐ろしいことをいいかけた気が。
「あ、相羽翔…です。日本の市谷って所の魔術学園 初等部に通っています 」
赤い髪のお姉さんは首を傾げている。
「ニホン?イチガヤ?聞いたことがない。名前はアイバショー?」
「翔って呼んでください、外国のお姉さん。ここは何処ですか?」
僕は裸だったので腰に掛かっていたブランケットをずりあげる。
昨日の記憶が思いだせない。
まあ多分、お爺ちゃんがまた何処かに僕を放り込んだんだろう。
「ここ?この島の名前はない。場所でいうと、大陸と大陸の真ん中ぐらい」
???
「えっと、お姉さんの名前は?」
「火の大精霊、イグニス」
大精霊?精霊ならわかるけど、大精霊とは聞いたことがない。
「でも、イグニスさんは僕に触れるし、精霊ってあの小さな妖精さんだよね?」
「その精霊が位階…、強くなると大精霊になる」
わざわざ簡単な言葉に直してくれるけど位階ぐらいは僕でもわかる。
「へぇ…じゃあイグニスさんは強いんだね!!」
きらきらと男の子は目を輝かせた。
この小さな男の子は、今朝方、海岸に流れついていた。
だぼだぼの奇妙な黒い服を着ていて、身体中打撲や切り傷、何か槍のようなもので貫かれた傷で、ズタボロだった。
私が助けなければ衰弱か、モンスターの餌になって死んでいただろう。
何故この小さな男の子に気づけたかというと、この子が極上の魔力を発していたからだ。
私があと5分見つけるのが遅ければモンスターのお腹に収まっていただろう。
「ショー、君の保護者、お父さんやお母さんは?」
「お父さんとお母さんはお仕事で外国。お爺ちゃんは多分僕を遠くからみているんじゃないかな?」
「そうなの?人間はショー以外ここにはいないと思うけど…、ショーは傷が治るまでここにいたらいい。私が治してあげる」
勿論、なにも疚しいところはない。
ちょっと治療のついでに魔力を食べさせて貰うだけだ。
「傷?ほんとだ、気づいたら痛くなってきちゃたけど、この位なら大丈夫だよ本当だよ?」
どこが大丈夫なものか。
治療したとはいえ、まだまだ傷は塞がっていない。
こんな小さな人間の男の子には辛いだろう。
「けほけほ、イグニスさん、お水をいただけませんか?喉が渇いてしまって」
ああ、そうだった。
この子は人間なのだ。
当然、水も飲むだろうし、食べ物だって必要だろう。
「ちょっと待ってて」
私は自分でも驚く位に慌てて水を汲みにいった。
「はい、水」
「ありがとうございます。いただきます」
こくこくと喉を小さく鳴らし水を嚥下していく。
足りないのでは?
私は甲斐甲斐しく水差しに水を汲みにいく。
「何か欲しいものはない?」
「いえ、結構です。少し眠らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「え?はい。寝ていい…よ?」
すうとショーは気絶するように寝入ってしまった。
病み上がりに無理させすぎた?
そうだ、ブランケット一枚では寒いだろう。
たしか漂着物で布やらが服が入った木箱があったはずだ。
倉庫代わりにしている洞窟に急ぐ。
「あった」
木箱の蓋を外し小さな子向けの服と下着、それと毛布を両手に抱えて寝室に戻る。
「そーっと、そーっと」
毛布をふわりと全身が隠れるように掛けてやった。
「…可愛い」
人間がいうところの天使とはこの子みたいな子のことをいうのではないだろうか。
毛布を掛けた私の手を無意識に掴む男の子。
「?!」
私と同じくらい小さな手から温もりが伝わってくる。
「ん、すう、すう、すう」
もう片方の手で頭をゆっくりと撫でてやると、ふっと気持ちよさそうに笑みを浮かべる。
これは、本当に、まずいかも。
そうだ、この子が起きたら何か食べさせてあげないと、お腹も減っているだろうし。
でも、掴まれてしまった手を振りほどいたら起きてしまわないかな?
「どうしよう」
私はすべすべの手の感触を楽しみつつも途方に暮れた。




