テントの中で
野営地につくと俺は弾かれた様に馬車を飛び出し、テントの準備を始めた。
アクアは5分程してから妙にキリッとした表情で馬車から降りてくる。
アクアは野営地の中央に料理を作りにいったらしかった。
「あいつ料理できんのか?」
と不安でいっぱいだったが、今の俺は非常に腹が減っており、ダークマターでもだされない限りはどんな料理でも完食できる自信があった。
日が落ち、飯時になると辺りに良い匂いが立ち込める。
アクアは鍋と大きいパン、葡萄酒であろう鮮やかな赤紫色の液体の入った瓶を抱えてテントに入ってきた。
グルグルとさっきから鳴りやまない俺の腹の音を聞くと、アクアは笑いを堪えながら食器に鍋の中身をよそってくれる。
一口サイズの赤やら緑やらの色とりどりの野菜と、鶏肉がごろごろと入った野営にしてはやたら豪華なポトフだった。
猫耳は身分が高そうだったし、俺達の働きに対しての労いの意味もあるのであろう。
恐らく優先的に食材をまわしてくれていた。
しかも葡萄酒つきで。
「いただきます」
恐る恐る、匙に掬ったスープを野菜と一緒に口に入れると、濃厚な旨味が味覚を刺激する。
「美味しい」
お約束なんてなかったんや!!となぜかコテコテの関西弁の感想が脳裏に浮かぶ。
ガツガツと口一杯にパンとスープを頬張っているとアクアは幸せそうに俺をみていた。
少し恥ずかしくなって葡萄酒でお茶を濁すと、葡萄酒の豊潤な香りが口の中一杯に広がる。
「そういえばお前ってご飯食べられるようになったんじゃないか?」
と俺は今更ながらに気づく。
「食べられるみたいです、さっき味見もしましたし、食べたものは体で完全に分解されて魔力に変わるようです」
「食べなくても大気中のマナを取り込んでいれば食事の必要もないようですが…」
「それなら今後は一緒に飯を食べよう、そっちの方が楽しいし」
と俺が提案した。
「はい、私も食事は楽しいと感じておりましたし」
問題ありませんと言いながら、自分の分のスープをよそう。
「お酒は?」
「飲んだことは当然ありませんが試してみます」
アクアがグラスをもち俺が葡萄酒を注いでやる。
「「乾杯」」
俺とアクアは軽くグラスを合わせ酒を煽る。
「いつもマスターが美味しそうにお酒を飲まれていましたがこれは納得ですね」
早々にアクアがグラスを空ける。
「おっいい飲みっぷりだねぇアクアちゃん」
とふざけながら空になったグラスに酒を注いでやる。
1人1柱だった俺達は2人となったことを喜びながら、旨い料理と酒で疲れた体を癒して、明日に備えるのだった。
ここで終われば良かったのだがまだ話には続きがある。
余程2人は嬉しかったのか鍋が空になってもなお、酒を飲み続けたのである。
「まだ飲むのかい?アクアちゃん」
と半分呆れながら空になり続けるグラスに酒を注ぐ。
酒に酔っているらしく(酒で酔えるらしい)少し顔が赤くなったアクアが言った。
「当然です」
注がれた酒はすぐにアクアの体の中に消えていく。
もう葡萄酒のボトルが3つほども空になっており、ボトルをおかわりしに行ったアクアは猫耳に少し引かれていたらしい。
俺は酔いがまわってきたのと、戦闘による疲れで居眠りをしていた。
アクアはグラスを地面にそっと置くと愛する主人ににじり寄っていく。
「マスター寝ちゃいましたか?」
小声で囁きながら正面に座りこむと顔を覗きこんだ。
いつものように年齢の割には、子どものような無垢な顔で眠る主人をみていると、体がぽかぽかと火照ってくる。
いまなら「教授」をすれば気づかれずに出来るだろう。
胸の奥がどきどきどきとうるさい位に鼓動を刻んでいる。
すぅとお互いの顔が近づいていき
「教授」
と小さく囁き葡萄酒の味がするキスするのだった。




