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第三十一話:女神さま②

 村長は、ユキとマオを集会場の中へ案内した。

 そこの中はシンプルなレイアウトになっていて、木の床の上にソファが二列向かい合わせになるように置かれている。三十人ほどは座れそうだ。二列になっているソファの間には長い木製のテーブルがある。

 部屋の奥には、まるで王様が座るような煌びやかなイスが一つあり、ソファに座る人たちが皆、そのイスの者を見れるようになっている。

 ソファに座って待っていてくれと、村長は奥のドアから別の部屋に入っていった。

 村長の姿が消えると、とたんにマオが立ち上がって辺りをうろつきはじめた。

 テーブルの下を覗きこんだり、その場でジャンプして木の床の感触を確かめたりした。靴を脱ぐとソファの上に飛び乗り、豪華なイスのある方へ走る。

「マオ、危ないからおとなしくしていなさい」

 ユキはソファに座りながらそう注意した。

 だが、マオはすでにイスの所にいた。そのイスに座ってみる。

「ふかふか!」

 マオはくすくすっと笑い、お尻でジャンプする。

「あまりふざけてると、村長に怒られるわよ」

 ユキは、そろそろやめさせねばと思い、立ち上がってマオの所に向かう。

「お姉ちゃんが来た! 逃げろー!」

 マオはキャッキャッとはしゃぎ、イスの上に立つ。そしてイスの後ろの壁を見る。

「あっ」

 マオはイスの背もたれに掴まりながら、壁にかけられている物を見つめた。

「コラ。いい加減に降りなさい」

 ユキがマオの肩に手をかける。

「お姉ちゃん、あれ見て!」

 マオが、ある物を指さす。

 それは、一枚の絵だった。金色の額縁に入れられている。

「女性の絵……?」

 ユキは、まじまじとその絵を見つめた。

 描かれている女性は十代後半から二十代前半ほどで、金色の装飾が施された豪華な服を着ている。小さく微笑を浮かべていて、こちらにまっすぐ向いている。

「コラ! 何をしてる!」

 村長が何かを持って戻ってきた。それをテーブルに置くと、ドタドタと慌ててマオの下に駆け寄り、彼女をイスから引きずり下ろした。

「痛ーい」

 マオは、引っ張られた右腕をさすりながら村長を睨む。

「神聖な女神さまのお席だぞ。無礼者!」

 村長の顔は真っ赤だ。

「申し訳ありません。厳しく言っておきますので」

 ユキはペコペコと頭を下げて謝る。

「あとで掃除しなくては……。もうこんなことはするなよ」

 村長が、苦い物を飲んだような顔をする。

「ほら、マオも謝って」

 ユキがマオの頭を無理やり下げさせる。

「……ごめんなさい」

 ブツブツとマオは謝る。

「もういい。子どもをこれ以上責めても仕方ない。ところで、この村で取れたミルクを用意した。飲んでくれ」

 彼はテーブルに載った二本のビンを指した。二百ミリリットルほどの容量で、見た目は特に普通のミルクと変わらない。

「ミルクだー!」

 マオはお預けを食らっていた犬のように走り、ビンを手に取った。そして口をつけて飲もうとする。

「あれ?」

 口を離した。

「あ、フタがしてある」

 マオはビンの口を覗きこむ。厚紙でフタがされているのだ。

「お姉ちゃん、これ取ってー」

 ビンをお姉ちゃんに差しだした。

 ユキは黙ってミルクと一緒に置いてある栓抜きでフタを取る。

「ありがとー」

 そうしてマオは一口飲んだ。

「味はどう、マオ?」

「濃い味」

 マオは目を真ん丸にした。

「この村で取れるミルクはとても濃厚なんだ。それだけ栄養価も高い。良かったらユキさんもどうだい」

 村長は自慢げに言った。

「いえ、わたしはロボットですので」

 丁重にお断りした。

「そうか。それはすまなかった」

 村長は、開けられていないミルクを持って、再びドアの中にいなくなった。


 一つ聞いてもいいですか。ユキは村長にそう言った。

「なんだね」

 ユキとマオの向かいに座った彼が顔を上げる。

「今日はお祭りのようですが、何を祝うのですか」

「ああ、今日は五年ぶりに女神さまがお目覚めになる日なのだよ」

 村長は、待ってましたとばかりに少し興奮気味に言った。

「女神さま……」

 ユキとマオは首をかしげる。

「この集会場の地下にシェルターがある。そこで、女神さまがコールドスリープで眠っておられるのだ」

「何の目的でコールドスリープを?」

「私たちに子どもを授けてくださるためだ。この村には、男は女神さまお一人としか子どもを作ってはならないという慣習がある」

「珍しい慣習ですね」

「仕方のないことなのだ。この村では、たとえ女神さまが女の子を産んでもすぐに死んでしまう。だから、この村で女の姿はない」

「それは奇怪な現象ですね。そうなると、近親相姦の問題が出てきますが……」

「問題ない。女神さまの祖先は天界から降りてきた神だと言われている。神と子どもをつくることは名誉なことなのだ」

「そうでしたか」

 これ以上話を聞くまいとユキは思った。どうせ理解することは出来ないのだ。ただ、女神さまがどういう人物なのかは気になった。

「ぜひ君たちもお祭りに参加していくといい。こんなチャンスはないぞ」

「はい。分かりました」

 だから、ユキは村長のその言葉にうなづいた。

3へ続きます。

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