表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/295

第三十話:分岐点

 森の中の整備された道を疾走していたレッカーは、その先に分岐点が見えてゆっくりと停車した。

 道は斜めに分かれていて、右側は相変わらず深い森が続いている。一方、左側の道は森が途切れて岩だらけの荒野の中にあった。

「参ったわ……」と、運転席で地図を見ながらユキはため息をついた。

〈どうしたんだ。地図に書いてあるんだろう? どっちに行けばいい?〉

 レッカーが急かすように言う。

「それが、タダでもらった地図の表記があいまいで、この分かれ道のどっちに行けばいいかよく分からないのよ」

〈なんじゃそりゃ。どうして事前に確認しなかったんだ〉

「あなたが言ったんでしょう? 『隣町に絶対夕方までに着こう。だから急ごう』って」

 空はすでにオレンジ色に染まっていて、あと数十分もすれば闇夜になるだろう。

〈明るいうちに宿に着いた方がいいと思ったんだ。何か悪いことでもあるか?〉

「レッカーのその考えがわたしに地図を確認させる余裕を与えなくて、結果的に道が分からなくなったんでしょ」

〈はいはい、俺が悪かったよ。俺が急かすからダメだったんだ。いいよ、この先はお前たちだけで行くといい〉

「そういうことにはならないわ。大人げないわよ」

〈俺の心はいつも青年だ。前にそう言っただろ?〉

 ねえねえ、としびれを切らしたようにマオがお姉ちゃんの裾を引っ張った。

「お腹空いた」

「お腹空いた? ……待って。あと一時間くらいしたら夕食にするから」

 お菓子は三時のおやつにしか食べてはいけないルールなのだ。

 マオは「えー」と嫌な顔をする。二人の間の席には、レジ袋に入ったスナック菓子が置いてある。マオにとって、これを我慢するのは苦行に等しいことだった。


〈それで、結局どっちへ行くんだ?〉

 マオが落ち着いたのを見計らって、地図とにらめっこしているユキに尋ねる。

「右にしましょう」

 ユキは地図を折りたたんだ。クラッチを踏みこんでギアを動かし、アクセルをふかす。ハンドルを右に切った。

〈根拠は?〉

「特にないわ」

〈なんだって?〉

 レッカーは急停車する。

「右の道がダメなら、左の道へ行けばいいでしょ」

 ユキはもう一度発進させた。


 ヘッドライトに照らされたアルファルトの道は、すぐ先で途切れていた。

〈あー……〉

 レッカーは停車し、ハンドルを切って方向転換する。そして、元来た道を引き返す。

「外れだったわ」

 特に気にする様子もなく、ユキは地図を広げた。

〈今日は野宿だな〉

「そうね。適当なところで休むわよ」

「今日は野宿? また例の野宿?」

 マオはワクワクした表情だ。

「ええ、例の野宿よ。外で寝るのが好きなの?」

「ホテルの方がいいけど、野宿だとお姉ちゃんにくっついて寝られるから好き」

 野宿の時は、レッカーの中でお姉ちゃんのひざを枕代わりにして寝るのだ。

〈なんか二人とも、のんびりしてるな〉

「ええ、のんびりの方がいいわ。ねえ、マオ?」

 ユキが隣を見ると、

「のんびりのんびりー」

 マオはシートベルトを外していた。そして、座席を四つん這いで移動すると、お姉ちゃんの足の間にすっぽりと収まった。

 ユキは黙ってマオを両腕で包んだ。

 それを見たレッカーは、アクセルを少し戻してスピードを緩めた。

三十一話をお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ