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第二十七話:マオのお姉ちゃん①

 これは、ユキとレッカーがマオと出会ったばかりの時のお話――


 静寂に包まれた森の中に、一羽のニワトリの甲高い声が響いた。

 その森は等間隔に木が伐採されていた。地面は高さ十センチほどの雑草に覆われている。

 季節は、ちょうど雨季が終わって夏の暑さがやってきたころだ。地面に保持された水分を木々が吸い上げ、枝いっぱいに肉厚の葉っぱをつけてまぶしい日差しを柔らかくし、森は適度に明るく照らされる。

 風が枝を揺らして葉っぱを擦り合わせる音と、小鳥の鳴き声だけが森に聞こえる。だが、それは一羽のニワトリによってかき消された。それが鳴いたとたん、驚いたかのように小鳥たちが鳴きやんだ。

 ニワトリは空を向いて一声鳴くと、下を向いてエサを探す。ふと、地面を這っていた甲虫の背中を硬いくちばしで突いた。頑丈なはずの外骨格はいとも簡単に砕け、中の柔らかい肉が露わになる。そして、ニワトリは足で虫を押さえつけると、その肉をほじくり出して食べた。六本の足をもぞもぞとさせて逃げようと暴れていた虫は、そのうち動かなくなった。

 硬い皮膚を残して食べ終わると、ニワトリは新たなエサを求めて歩き回る。


 ニワトリから二メートルほど離れた風下の木の陰に、少女が一人隠れていた。

 歳は十四歳ほど。紺色の作業服を着ていて、背は高い。ショートヘアーで、顔立ちは綺麗な方だ。

 少女はひざをついてレーザー銃を握っていた。その銃口はまっすぐニワトリに向けられている。頭を撃ち抜きたいが、さっきから頭を上下に動かすから狙いがつけにくい。レーザーポインターの赤い光がニワトリの体に当たっている。

 三分ほど経った時、ニワトリは地面を突き始めた。目を凝らして見てみると、まだ青い木の実だった。おそらく、風で枝から落ちたのだろう。

 少女はレーザーポインターを頭に当てた。赤い点が後頭部にできている。今だ。彼女は何のためらいもなく、引き金を引いた。

 その瞬間、ニワトリの頭が爆発した。首から血が吹き出て、辺りの草を濡らす。そして、体はその場に倒れた。

 少女は、ふうと一息つくと、立ち上がってニワトリに近寄った。動かないことを確認すると、懐から一メートルほどのロープを出し、うろこで覆われた足を縛る。もう一本同じ長さのロープを用意し、首筋を縛って血をまき散らさないようにする。

 彼女は自分の体から離すようにしてロープでニワトリをぶら下げると、そのままその場を離れた。


 森の中に、木を伐採してつくられた道があった。それはまっすぐに地平線の向こうまで続いている。

 その道に、荷台付きクレーン車が一台停まっていた。車体の色は白、赤いクレーンが荷台へ垂れている。

 クレーン車の荷台には、フライパンや小さい鍋やガスコンロが入ったクーラーボックスに似た箱、食材を保存しておくための小さい冷蔵庫、そして金属を拾う時にがれきを取り除くために使う真っ黒いボックスが載っていた。普段なら、売り物である金属も一緒に搭載されているが、今日はその姿はない。

 クレーン車の助手席には、五~六歳の女の子が一人座っていた。そわそわして落ち着かない様子で外を見ている。

 ニワトリを持った少女が森の中から出てくると、女の子はドアを開けて飛び降りた。

「うわあ、大きい鳥! お姉ちゃん、それはなんていう鳥?」

 女の子は、ポタポタと血が垂れている肉を持ってきた少女に尋ねる。

「ニワトリよ、マオ。あなた、ニワトリを見たことがないの?」

 少女はけげんそうに言う。

「うん、見たことない」

 マオと呼ばれた女の子は、素直にうなづく。

「そう」

 あまり興味がなさそうに少女は答えると、地面にニワトリを置いてクレーン車の荷台へ登った。そして大きなビニール袋を持って飛び降りる。

 少女が袋にニワトリを入れようとすると、

「あたしが入れるー!」

 マオが、ニワトリを縛ったロープをつかむ。

「どうして? 誰が入れても同じことよ」

 少女は首をかしげる。

「あたしが入れたいの。いいでしょ?」

 マオはダンダンと足を踏み鳴らす。

「分かったわよ。まったく、わがままなんだから」

 はあ、とため息をつくと、少女はニワトリの足につながれたロープをマオに渡す。

 顔をほころばせながらロープを持ったマオだったが、

「重っ!」

 予想以上に重かったのか、ロープを手から滑らせてニワトリを地面に落っことしてしまった。

 すると、死んだと思っていたニワトリが突然羽をばたつかせた。

「動いた!」

 マオは目を丸くして、頭のないニワトリが羽を力いっぱい動かしている様を見た。

「相変わらず、ニワトリの生命力は強いわね」

 やっぱり少女は自分で袋に入れることにした。彼女はしゃがんで地面に落ちたロープを持つと、下に置いた袋に入れようとする。

 ニワトリは最後の抵抗のつもりなのか、羽を動かすのをやめない。そして、首から漏れた血が羽に染み込み、それを飛び散らせる。その血は少女の顔に水滴となってかかる。

「…………」

 少女は、不満そうに顔についた血を袖で拭った。

〈災難だな、ユキは〉

 クレーン車がハハハとおかしそうに笑う。

「静かにしてなさい、レッカーは」

 ユキと呼ばれた少女は、レッカーという名のクレーン車をにらんだ。

2へ続きます。

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