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第二十三話:移動する村③

 翌日の朝、ユキとマオは村長に連れられて彼の家を出発した。

 居住区の下へ降りるエレベーターはレッカーも乗れるらしく、同伴することになった。レッカーの車体は大きくてなかなか二人と一緒にどこかを見学することが難しいため、いつもだったらここでは、

「やった! 時間が潰せるぞ」

 などと喜ぶものだ。しかし、今日はユキが「ついてきて」と言っても一切何も言わず、マオや村長が話しかけても、「ああ」「分かりました」としか言わない。

 村長は、「寡黙な方なんですね」と苦笑したが、マオにはレッカーがとても不機嫌であると気づいていた。いつも二人と行動する時は、嬉しそうに荷台の方に垂れたクレーンをしっぽのように振っている。だが、今は運転席の前に固定している。ここに来る前にあれほどお姉ちゃんとケンカしていたのだ、すぐに機嫌は直らないのだろう。

 ともあれ、レッカーはちゃんと三人の後ろをついてきていた。

 マオは、そうっとお姉ちゃんに聞いてみることにした。

「お姉ちゃん、レッカーと仲直りしないの?」

「そのうちね」

 ユキも小さめの声で答える。

 マオはちらっと後ろを見るが、レッカーには聞こえていないようだ。

 レッカーにも言葉が通じたらいいのに。マオはそう感じていた。そうしたら二人が仲良くなれるようできるのに。おそらく、今のお姉ちゃんはレッカーの言葉を伝えてはくれないだろう。

 二人が仲直りできる方法を考えていると、手をつないでいるお姉ちゃんが足を止めた。気がつくと、目の前に昨日見たエレベーターがあった。

「お先にレッカーさん乗ってください」

 エレベーターのドアが開くと、村長はレッカーに手招きした。

 レッカーは無言でゆっくりと大きな箱の中に入っていく。

 全員乗りこむと、村長はB1と書かれたボタンを押した。

 ユキは、昨日から疑問に思っていたことを村長に尋ねた。

「どうしてこんなに大きなエレベーターが必要なんですか」

「大型農作業機械を搬入するためですよ。これくらいの大きさがないとダメなのです。それに、小さい村と言っても一キロ四方はありますから、お年寄りが村を移動するには車がいるのです」

 よぼよぼな私は特にね、と村長は笑った。

 エレベーターのドアが開くと、目の前には農道があった。大きな車が一台通れそうな広さだ。その道は敷地の中心をずっと先まで延びていて、その左右に畑やハウスが広がっている。農地は天井まで伸びる壁によっていくつも分けられている。

 レッカーはバックでエレベーターを出て、そのあと三人も降りる。エレベーターの横には、車が前後を変えるための土地があり、レッカーはそこで反転した。

 三人はレッカーの荷台に乗ることにした。まずはマオを抱えて乗せ、次にユキが這い上がり、最後に村長を引き上げる。

 レッカーは何も言わず十キロくらいのスピードで農道を走りだした。

 農業はこの村の大事な産業です。村長は話を始めた。

「四百年ほど前から私たちはこのロボットで移動する生活をしています。私たちの先祖は馬に乗って各地を放浪していたそうなので、この生活が合っていたのです。

 その初期から、この村では農業をしています。土の層の下には一年中温度管理が可能な装置があり、さらに空調も同時に操作することによって、ロボットの中でも四季をつくりだすことができます。

 たくさんの壁で区切っているのは、一年中野菜を収穫できるようにするためです。わざと壁の中を暑くしたり寒くしたりすることで、それぞれの部屋の中でバラバラに四季が流れています。そのおかげで、外の世界であまり出回っていない野菜を、旬の状態で売買することができるのです。天井の光は太陽の代替です。試しに、どこか適当な所に入ってみますか。レッカーさん、停まってもらえますか」

 村長がそう頼むと、レッカーはブレーキをゆっくりとかけて停止した。

 先にユキが降りてマオを抱えて降ろす。

 村長はどうにか自分で飛び降りた。

 彼は金属のドアを開けると、先にユキとマオに入るよう促した。そして自分も入ってドアを閉める。

 そこには一面の土が広がっていて、苗のようなものが植えられている。遠くにはトラクターが見え、お尻につけられた機械がそれをどんどん植えている。

「ここでは玉ねぎを育てています。この部屋ではちょうど春に設定されていて、機械で苗を植えている所です。ちょっと話を聞いてみましょうか」

 そう言うと、村長は慣れた様子で畑に入っていく。ユキとマオは彼に付き従う。

 こちらに向かってくるトラクターに三人は近づく。

「よお、村長さん。今日も元気かい」

 トラクターに乗っているのは五十歳くらいの男だ。作業服姿で赤色のキャップ付き帽子を被っている。

「私はいつだって元気さ。この通り、ここまで出かけてこれるんだから」

「違いねぇ」

 男と村長は笑いあった。

「ところで村長よ、この子たちはお客さんかな」

「ああ、農場を見てもらおうと思って。こんな施設はなかなか見られないから」

「そうかい。お嬢ちゃんたち、ゆっくりしていきなよ。ここには心優しい人たちしかいない。スケベな女好きはいっぱいいるがな」

 ケラケラと男は笑った。

「あんまりからかっちゃいかん。ところでお前さんの次の予定は何だい?」

 村長が尋ねる。

「次? 午前中には苗植えの作業を終えて、午後からは別の所で玉ねぎの収穫作業をするさ」

「おお、今月は大きな玉ねぎができるといいんだがな……」

「いやー、昨日見たけどあまりいい大きさじゃなかったな。一度システムを点検した方がいいんじゃないか?」

「そうだな。近いうちに頼むことにする」

「ああ、よろしくな」

 男は農作業に戻っていった。

 男を見送ると、村長はユキとマオの正面に立った。

「さて、私はこれから居住区に戻らなくてはなりません。実は村民の代表たちを集めてお話をしなくてはならないのです。すみません」

 そして、三人はレッカーに乗りこんだ。レッカーはエレベーター目指して後進する。

 ところで、とユキが村長を見た。

「ここの人口はどれくらいなんですか?」

「ざっと千人ほどです。小さな村ですが、それだけ仲良くやれています。そのうちの半分は農業やこのロボットの操作やメンテナンス全般、そして役場の人間です。あとは老人と子どもたちです」

「そうですか。もう一つ聞いてもいいですか」

「ええ、どうぞ」

「エレベーターのボタンを見た時、二階へ行くものもありましたが、二階には何があるのですか」

「二階にも農場があります。ここよりは大きくありませんが。あと、操縦室があります」

「地下二階もあるようですが、そこはボイラー室ですか」

「そうです。察しがいいですね。メインエンジンもそこで管理しています」

 そうして三人と一台はエレベーターまで着いた。

 よければ会議に参加してみませんか。エレベーターの中で村長はそう言った。

4へ続きます。

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