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第二十二話:宇宙人のお家③

 少年は向かい側のソファに腰を下ろすと、ユキとマオに話を続けた。

「ぼくの名前はトウヤといいます。でも、サイーナにはトーヤンと名乗っています。変な名前にしておけば、宇宙人っぽいかなと思ったのです。

 彼女は、ぼくと同じ学校で同じクラスでした。クラスの人気者で、男子から告白されたりからかわれたりすることは日常茶飯事です。

 一方、ぼくはあまり友達はいない方です。教室の隅で宇宙の本ばかり読んでいました。だから、普通だったらあの子に声をかけられるほどの立場ではないのです。

 でも、神様はぼくの味方でした。なんと、サイーナも宇宙のことが好きだったのです。家には、宇宙に関するたくさんの本があることを、盗み聞きして知りました。チャンスだと思いました。この話を持ちかけて仲良くなろう。そう思って思い切って話しかけました。当たりでした。すぐに意気投合したぼくたちは、登下校の時にずっと宇宙の話をしていました。その時に、サイーナが宇宙人が存在することを信じていると知りました。ぼくも、この広い宇宙にはきっと未知の人類がいるのだろうと思っています。そして、ぼくはいつか宇宙人に会いに行くと彼女に誓って、宇宙服のレプリカをお父さんに買ってもらいました。

 ところで、サイーナと仲良くなった直後から、ぼくはクラスの男子からいじめにあうようになりました。当然ですよね、よりにもよってこのぼくが彼女と仲良くしているのですから。ぼくは心が強くはないので、二か月もすると不登校になってしまいました。あんな学校行くもんか、死んでもあの学校をやめてやる、そう思っていました。サイーナにあえなくなるのは寂しかったですが、死んでしまいたいくらいつらい所に通うよりはマシでした。

 不登校が始まってから一週間後、なんとぼくの家にサイーナがやってきました。びっくりしました。驚いて腰を抜かしてしまいました。実は、彼女は学級委員長でした。ですから、不登校のクラスメイトを訪ねるのは彼女の仕事でした。宇宙人と呼ばれるくらい頭が良かった彼女にふさわしい仕事だと思います。

 彼女は不登校を始めたぼくを責めることはしませんでした。それどころか、いつも通りに宇宙の話をしてくれました。図鑑を持ってきて、ここの銀河系は綺麗ねとか、ここに連れていってとか、軽く冗談を言って楽しませてくれました。学校に通うより数十倍も楽しかったですし、ぼくの知らない知識を教えてくれて、学校よりも勉強になると思いました。

 ぼくはだんだん心の傷が癒えてきて、新学期になってクラス替えになったころに学校に行くことにしました。『私とまた同じクラスになったから行こう、先生たちが配慮してくれていじめっ子たちを別のクラスにしてくれたから安心だよ』。彼女のその言葉がぼくの背中を押してくれました。学校に再び通い始めた初日に先生から、『サイーナが先生たちに言ったんだ。トウヤくんをいじめっ子たちと引き離してほしいってね』ということを聞いた時、こらえきれずに泣いてしまいました。それから、ぼくは誓いました。サイーナのために学校に通って勉強することを。いつか彼女を宇宙に連れていくことを。

 すみません、話が長くて。でも、ここからが本番なのです。

 またぼくが通学し始めてから半年ほど経った時、思わぬ不幸が起きてしまいました。サイーナの両親が交通事故で亡くなったのです。百パーセント相手に責任がありました。それは、ぼくがいじめられていたこととはまったく関係ありません。

 ぼくと入れ替わるように、彼女は不登校になりました。恩返しのために、ぼくは何回も彼女の家、つまりここに通いました。でも、家には入れてくれませんでした。それほど心が傷ついていました。

 そして、思いついたのです。宇宙人のフリをして来れば家に入れてくれるかもしれない。ぼくは、この星に不時着した宇宙人という設定で彼女と接触しました。ぼくの演技が良かったのか、すっかり信じ切ってしまったようです。

 ぼくは家出してここに来ました。もちろん置き手紙はしてきました。でも、ここに来ることは伝えてません。

 ぼくは彼女の家の掃除や食事などの家事をすることにしました。宇宙人が家事をするなんて面白い話ですね。買い物は宅配サービスを利用しています。まさか、この恰好で買い物に行くわけにはいきませんから。そして、現在まで一か月ほど一緒に暮らしています」

 話し終えて、トウヤはコップに入ったりんごジュースを一気に飲み干した。

 話に聞き入っていたユキは、タイミングが来たとばかりに彼にこう言った。

「誰か、外で盗み聞きしている人がいるようよ」

 え、とトウヤは顔を強張らせて立ち上がってヘルメットを被り、玄関に向かいドアを開けた。

「…………」

 そこには、なんとサイーナがいた。

「や、やあ、おかえり」

 ぎこちない様子で彼女を迎えた。

「ただいま、トウヤくん」

 彼女はそう言った。

「話を……聞いていたようね」

 ユキはサイーナに言った。

「いらっしゃい、宇宙人のお家へ」

 サイーナはくすっと笑った。そして家の中に入る。

「いつから……聞いていたの?」

 トウヤはおそるおそる尋ねる。

「トウヤくんが不登校になったっていう話をしている時、かな。ドアを開けようと思ったら、声が聞こえたの。ほら、ここの壁、薄くて外まで音が漏れ漏れだから」

 落ち着いた声でサイーナは言った。

「そうなんだ……。ごめんよ、ぼくが本物の宇宙人じゃなくて」

 トウヤは、ペコっと頭を下げる。

「ううん、ちょうど疑っていたころだったから。どこかで聞いた声だなって思ってたの」

 サイーナはユキとマオの向かい側のソファに座る。

「面白いでしょう? トウヤくんは」

 サイーナはフフッと笑う。

「そうね、こんなことする人どこにもいないと思うわ」

 ユキも笑みを浮かべる。

「ねえ、お姉ちゃん、この人も宇宙人なの?」

 マオはサイーナを指さす。

「そうよ、ある意味宇宙人よ。同じ宇宙人だから、彼の気持ちを理解してあげられたのだと思う」

 ユキはマオの頭を軽くなでた。


 帰り際、ユキはサイーナに尋ねた。

「これからどうするの?」

「私は学校に戻るつもり。ようやく吹っ切れそうなの。実は、今先生と話をして戻ってきた所」

「そう、彼とはどうするつもり?」

「もちろん、また一緒に学校へ行くわ。だって、宇宙人は私たち二人だけだもの」

 サイーナは、それまで笑っていなかった分を一気に消化するようにくすくすと笑った。

「トウヤくんはどうする?」

 ユキは彼に訊く。

「サイーナが元気を取り戻したなら、ぼくがここで暮らす必要はありません。家に帰ってお父さんとお母さんにめいいっぱいしかってもらいます」

 彼は苦笑した。

「そして、お父さんとお母さんを説得します。サイーナを家に置いてくれないかって」

 彼は彼女を見てそう付け足した。

 サイーナはびっくりして腰を抜かした。トウヤが肩を貸そうとすると、彼女は彼に抱きついてわんわん泣き始めた。


〈いい話が聞けたようだな〉

 レッカーは機嫌よさそうに言った。

「ええ、とっても」

 ユキは地図を広げた。次はどこへ行こうか考え中である。

「あの二人、扇風機にアーーってやってるかな」

 マオはプククっと笑っている。

「そうね、きっとトウヤくんはヘルメットなんかせずにアーーってやっているでしょうね」

 ユキは、二人の家が小さくなって木々に隠れて見えなくなるまで、いつまでも見ていた。

二十二話は終わりです。二十三話をお楽しみに。

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