第二十一話:呪いの村②
遺跡を探検することになったユキは、改めて「よろしくお願いします」と頭を下げた。
それを見よう見まねでマオも「お願いします」とたどたどしく言った。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
フフッと教授は興奮が抑えきれないように笑った。若い子たちが遺跡に興味を持ってくれたことがよっぽど嬉しいらしい。
「マオさんはユキさんの手をしっかり握っていてください。明かりは天井からつるしていますが、それでも薄暗いので、足元には注意して進んでください」
教授は、遺跡の一角にある丘になったところを指さした。高さは約五メートル。そこのふもとに、二メートルくらいの穴が開いている。
「マオ、いい? しっかりわたしの手をつかんでいるのよ」
お姉ちゃんは、初めての場所に興奮して落ち着かないマオの手を捕まえて握った。
「うん、分かったー」
ほとんど棒読みで答えたマオ。はたしてお姉ちゃんの声は届いたのだろうか。
「それでは、ご案内します」
教授が先頭に立って歩き出した。
彼の後ろを、ユキとマオがついていく。
そして一番後ろを、まるで三人を警護するかのように助手がついて回る。
丘の中に入ると、太陽光が遮られて一気に薄暗くなった。明かりは天井の豆電球だけだ。
「ここから階段になっているので、足元に気をつけて」
先頭を歩く教授の背が小さくなった……と思ったら、階段を下りていっているだけだった。
「あの、ここは一体どういう遺跡なんですか?」
やっと本題に入れると言わんばかりに、ユキが尋ねる。
「ああ、そういえば言っていませんでしたね。ここは、お墓です」
教授はこちらを見ずにそう言った。
「お墓……ですか」
ユキは足元をすくわれたような顔をする。
「はい。ここは、約一千年前に森の奥地で自然と共に生きていた民族のお墓なのです」
教授はどんどん息が荒くなっている。
「お墓ってなーに?」
手をつながれたマオが首をかしげた。
「お墓っていうのはね、死んだ人が眠る場所のことです」
教授は、なるべく短くかんたんに説明する。
「ふーん」
あまり興味がなさそうにマオは答えた。
「もっと時代をさかのぼると、その時代の有力者のお墓は民衆とは別につくられていましたが、ここの遺跡では特にそのような区別はされていないようです」
「ということは、この奥にたくさんのお墓があるのですね」
「ええ、お墓というよりも、大きな部屋にたくさんの人骨が寝かされているだけのかんたんなものですけど」
「へえ、そうなんですか」
ユキは、教授の言葉を聞いてだんだん不安になってきた。大量の人骨をマオに見せて大丈夫だろうか。トラウマにならないだろうか。
「人骨って?」
マオが再び尋ねる。
「人の骨よ」
今度はユキが教えてやる。
「ふうん、ちょっと見てみたいかも」
どうやら、恐怖よりも好奇心の方が勝っているようだ。
「もう少しで大きな部屋に着きます。もし人骨が苦手なら、覚悟しておいてください」
教授はこちらを見てそう言った。
階段がなくなったその先は、土を固めた四角く細長い廊下になっていた。どこまでも長く続いていて、進んでいくたびに天井の明りがあちこち切れている。
「ここです。死者の眠る場所なので、お静かにお願いします」
そう言って教授は先に部屋へ入っていった。
そこは、レッカーが二十台は入れそうなほど広々とした四角い空間だった。天井にたくさんの明かりがあって明るい。すでに十人ほどの作業員がうろついていた。そして、広大な床を埋めるかのように人骨が横に寝かされている。それらは頭を壁に向け、足を部屋の中心に向けている。おそらく、この部屋を真上から見たら放射線状に人骨が並んでいるだろう。人骨は、遠くから見た限り損傷はあまりなく、皆仰向けだ。長い髪の毛が残っている骨もある。手を胸の辺りで組んでいる。衣服は身につけていない。
この部屋に臭いは特にない。長い年月が経ってとっくに肉体は腐り落ちて地面に染み込んだらしい。
「僕たちは、ここにある骨を調べて、約一千年前という数字を導きました」
教授は、すごいでしょと言いたげな顔をユキとマオに向ける。
ユキとマオは、初めて見る大量の人骨に見入っていた。普通、人間の骨を見たら気持ち悪いと思うのだが、これだけ整然と並べられているのを見ると、荘厳な雰囲気を感じる。
「ところで、ここには男や女、子ども、お年寄りなどの様々な骨があるようですね」
ユキは教授を見た。
「ほう、ユキさんは骨を見ただけで性別が分かるのですか」
感心するように教授は言った。
「はい、詳しいもので……」
本当はデータベースに入っているだけなのだが、わざわざ自分がロボットだと明かす必要はないだろう。
「その通りです。ここには老若男女の骨が一通りそろっています。これっておかしいと思いませんか?」
教授はユキとマオを試すように質問を投げかける。
「おかしい……。マオは分かる?」
実はユキには見当がついているのだが、ここはあえてマオに答えを出させてみる。
「分かんない。色んな人の骨があるだけでしょ?」
マオは首をかしげるばかりだ。
「よく考えてみて。ここは死んだら来る所でしょ。人が死ぬのはどうしてかな」
「ええと、歳をとったら……?」
「その通り。あとは……」
「……病気?」
「あ――」
「当たりです、マオさん」
ユキの言葉をさえぎって教授が答える。
「僕たちはここにある全ての骨を調べました。すると、同時期に死亡したものだということが分かったのです。病気の可能性が高いですが、骨だけではなんとも言えないので、今後は文献と照らし合わせて調べてみるつもりです」
すると、教授は辺りをキョロキョロと見回した。
「メイフォンさん、彼はいないようですね」
「そうですね。きっと奥の部屋でしょう」
それまで無言を貫いていた助手がそう答えた。
さて、と教授は再び先頭に立って出口に歩き出した。
「まあ、僕たちのような専門家だったら、まだまだここの骨たちを見ていても飽きないのですが、あなたたちはおそらく気疲れしてくるでしょう。もう次の部屋に行きますか」
「次の部屋、とは?」
ユキが尋ねる。
「宝の部屋です」
ニヤッと教授は笑った。
3へ続きます。




