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第二十一話:呪いの村①

 とあるコンビニエンスストアに、一台の荷台付きクレーン車が停まっていた。

 車体は白で、クレーンは赤に塗られている。エンジンは切られているが、荷台の方に垂れたクレーンは、ゆっくりと横に揺れていた。

 空は朝日がまぶしく、駐車場やコンビニの壁をキラキラと照らしている。

 駐車場には他に車はない。一台で広々使えて気持ちいい。

 ただ、暇だった。そのクレーン車はかれこれ二十分くらいこうして待っている。

 なぜ彼がずっと待ち続けているかというと、コンビニの中で連れが用事を済ませているからだった。

 いつも彼を運転しているのは、ユキという少女だ。見た目は十四歳くらい。紺色の作業着を着ていて、高めの身長にショートヘアー。十四歳でも車を運転できるのは、彼女がロボットだからである。

 助手席には普段、マオという女の子がちょこんと座る。歳は五~六歳ほど。人間で、服は季節ごとにきちんと変えている。食欲が旺盛だ。

 そして、彼女たちを守るようにドンと構えているのが、このクレーン車だ。二人からはレッカーと呼ばれている。ユキとは長い付き合いで、仕事をする時はもちろん、それ以外でもいつも一緒である。人工知能を搭載していて、自分でエンジンを入れて走ることもできる。

 早く帰ってこないかなぁ。レッカーはコンビニの中を覗きこんだ。店員が一人暇そうにカウンターに立っているだけで、他に人影はない。どうやら店の裏にいるようだ。

 やがて、カウンターの奥から誰かが出てきた。店員が一人と、ユキとマオだ。ユキは大きな段ボール箱を一つ重そうに抱えている。

 ユキはそれをカウンターに置いた。ふう、と一息つく姿が見える。

 店員はその段ボール箱をスキャナーにかざす。そしてそれにシールを貼る。

 画面に表示された値段を見て、ユキは高額の宝くじが当選したかのように顔をほころばせた。どうやら、相当安く買えたらしい。レッカーは買い物をしたことがないから、値段の相場は分からない。

 ユキは鼻歌を歌いだしそうな笑顔を見せ、財布の中身を取り出した。それを店員に渡す。お釣りをもらうと、段ボールを重そうに持ち上げた。ただ、その重さにあまり嫌気は差していないようである。むしろ、嬉しい悲鳴ならぬ嬉しい重さといったところだ。

 ユキがコンビニから出てきたから、レッカーは運転席のドアを開けた。「うんしょ」とユキは段ボールを自分の頭よりも高く持ち上げ、運転席に置いた。

「お待たせ」

 ユキは段ボールを真ん中の席に押しのけながら乗りこんだ。

「大収穫だわ。ね、マオ」

 ユキは、助手席に飛び乗ったマオにそう言った。

「うん、すごいね、このたくさんのお弁当とおにぎり!」

 マオは早くも舌なめずりしている。

〈弁当買ったのか。よくこんなに買ったな〉

 バックしながらレッカーはユキに言う。

「今日お世話になる人たちに配ろうと思って。これくらいする価値のある仕事よ。なにしろ、国の機関からの仕事だもの」

 ユキはいつにも増してはりきっている。少し興奮して、ニヤニヤが止まらない。

「それに、これは元々廃棄する予定だった弁当なの。一応今日のお昼ごろまではもつんだけど、お店には並べないつもりだったらしくて。もしかしたら廃棄寸前の食品があるんじゃないかって思って交渉してたっていうわけ。大成功だわ」

〈そうか、それはさぞ儲けたろうな。……いや、待てよ。廃棄する予定の弁当をマオに食わせてもいいのか? 俺はそれが心配なんだが〉

 レッカーはウインカーを出して大きな道に入っていく。

「大丈夫よ。マオの胃は鉄筋コンクリートでできているから。ね、マオ」

 ユキはマオを見て首を傾けた。

「ん?」

 マオは早くも、口いっぱいにおにぎりをほおばっていた。中には鮭の切り身が入っている。

〈何の解決にもなっていない。食中毒になったらどうするんだ〉

 レッカーの運転するハンドルが少しガクガクと揺れて危なっかしい。

「ほら、これも買ってあるから大丈夫」

 そう言ってユキが段ボールから取り出したのは、五百ミリリットルのお茶だった。

〈お茶……。お茶がどうかしたか〉

 完全に疑うような声でユキに尋ねる。

「お茶には殺菌効果があるの。これで問題ないわ」

 ユキはお茶を段ボールに放りこむ。

〈財布の中身を気にするのは分かるが、マオにはちゃんと安全なものを食べさせろよ〉

 レッカーとしては、そのことを口を酸っぱくして訴えたい。

「分かってるわ。厳密には消費期限は切れてないもの。それに、やっぱりこれだけたくさんある廃棄物をみすみす見逃せないわ。私たちの都合で捨てられてしまう大量の食べ物がかわいそうでしょ。弁当は犠牲にしちゃいけないわ」

 ねー、とユキはマオに同意を求める。

「ん?」

 相変わらず、マオは食事に夢中になってほとんどお姉ちゃんの話を聞いていなかった。


 二十分ほど走ると、林が目立ってきて建物が少なくなってきた。

 今日の仕事先は、とある遺跡発掘現場だ。そこで採れたものを運ぶ仕事らしい。どんな遺跡なのかはまだ知らされていない。求人には、「遺跡で発掘されたものを運ぶお仕事です」「初心者歓迎」「責任感のある方求む」とあった。貴重なものだろうからそれだけ慎重に運ばなくてはならないのだろう。

 山のふもとの整備されていない道を進んでいると、森が切り開かれた所にそれはあった。

 カラカラに渇いた赤土があちこち四角く掘り返されていて、その周りを何十人もの人間やロボットがうろついている。重機は一切なく、すべて手作業で掘られているようだ。

 ユキはレッカーを停めると、ドアを開けて運転席から飛び下りた。

「どこ行くの?」

 マオがお茶の入ったペッドボトルを握りしめながら尋ねる。

「教授にあいさつに行くのよ」

 そう言って、ユキはドアを閉める。

 仕事の依頼者は、とある大学の教授だった。事前に調べた情報によると、専攻は古代文化で、その道では第一人者的存在らしい。その時に写真も資料に載っていたから、教授がどんな顔をしているのかは分かった。

 作業服姿の人間や、ドリルや工具を腕につけたロボットがいる中、Yシャツにネクタイをしている人が二人だけいた。一人は六十代後半くらいで、もう一人は三十代半ばだろうか。教授は前者の方だった。

「すみません」

 とユキは声をかけた。立ち話をしていた二人がこちらに顔を向けた。

「初めまして。わたしはユキと申します。この度、遺跡で発掘された物品の運搬をやらせていただきます。よろしくお願いします」

 ユキが頭を下げると、

「よろしく。僕はアイノスといいます。よろしくお願いします」

 アイノスと名乗った教授も軽く頭を下げる。彼はピッタリ三十度頭を傾けた。

「こちらの方は……」

 ユキは教授の横に立つ男を見上げた。身長は百八十センチくらいあるだろうか。屈強な体をしていて、ユキがロボットでなかったらかんたんにひねりあげられそうだ。

「ああ、この人は僕の助手でメイフォンといいます」

 どうも、と助手はものすごく低くて小さい声であいさつした。猛獣のような目をしている。なかなか気難しい性格のようだ。それにしても、助手を「この人」と紹介するとは、教授はかなり他人行儀だ。あまり親密な関係ではないのだろうか。

「早速ですが、わたしはこれから何をすればいいでしょう。発掘されたものをレッカー……クレーン車まで運べばいいですか?」

 ユキはレッカーを指さす。

「いえ、実際にものを運ぶのは僕の教え子やロボットたちがやります。あなたは待機していてもらえればいいです。それとも、僕と一緒に遺跡探検でもしますか?」

 教授は、少年のようにあどけなくフフッと笑った。

「いいんですか? 暇つぶし……じゃなくて、勉強のために同行してもいいですか?」

 ユキは慌てて言葉を直す。

「もちろん。歓迎しますよ。一人でも多く古代の文明に興味を持ってくれる人が増えればいい」

 教授はユキに手を差し出した。

「ありがとうございます」

 ユキは彼の手を握った。しわくちゃだがゴツゴツしてまるで職人のように使いこまれた手だ。

「早くしないと全部運び出してしまうのでね、見たいのなら今のうちがいいでしょう」

 探検したい想いが抑えきれないのか、教授は早くも歩き出した。

「あの、もしよければ、わたしも助手を一人つけてもいいですか?」

 ユキはおそるおそる尋ねる。

「ほう、どなたですか?」

 教授はニコニコと笑う。

「わたしの妹で、小さく元気な助手です」

 ユキは微笑を浮かべた。

2へ続きます。

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