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第二十話:新年

 とある大型スーパーマーケットの駐車場に、一台の荷台付きクレーン車が停まっていた。

 そのスーパーはとっくに営業を終了していて、駐車場の明かりは消えている。百台以上停められるこの敷地はほとんど真っ暗だ。街灯がなければ、まったく何も見えなくなるだろう。

 夜も更けてきて、気温が氷点下まで下がっている。雪がちらついていて冷える。

 ただ、そのクレーン車の車内だけは煌々と明かりが灯っていて、暖房のおかげで温かった。

「根雪になるかしら……」

 運転席に座る少女が、窓の辺りにひじをついて外を見た。その少女は紺色の作業服姿でショートヘアー。歳は十四歳くらいだ。

「根雪って?」

 助手席にいる女の子が尋ねた。黄土色のセーターと濃い灰色のジーパン姿で、歳は五~六歳だ。

「今降ってる雪がそのまま積もることよ。本格的に寒くなるわね」

 少女は、曇ってきた窓を手で拭う。

「そうか。どうりで寒いと思った」

 女の子が腕で自分の体を抱いて寒い意思表示をする。

「あら、マオ寒いの? だったらこれ着なさい」

 少女はマオという女の子に子ども用コートを渡す。

「こんなに厚いのいらない」

 マオはコートを真ん中の席に置く。

「じゃあせめて、ひざにかけていたら?」

 今度はひざにかけてやる。

「大丈夫だよー」

 再びコートを真ん中の席に置く。

「さっき寒いって言ってたじゃない」

 少女は、よく分からないといった表情をする。

「寒くなくなった」

 マオは強がるように言った。

 二人は、ここで車中泊する予定だ。本当はホテルか旅館に泊まりたいところだが、貧乏な二人にそんな余裕はない。

「ところで、今日は何の日か知ってる?」

 少女はマオに訊く。

「何かあったっけ」

 マオは口をちょっと開いて少女を見る。

「あと一時間ほどで今年が終わるのよ。もう少しで新しい年が始まるの」

 少女の言葉に、ふうんとあまり興味がなさそうに答えると、真ん中の席に置いてあるお菓子やジュースを指さした。

「じゃあ、これは何? これから食べるの?」

 すると少女は、そうよと言った。

「いつもならこんな時間に食事なんてしないし、お菓子なんて論外なんだけど、今日は特別。これからパーティーやるわ。一年の終わりと始まりを三人で祝いましょ」

 少女はビニール袋を開け、中に入っているスナック菓子やジュースを取り出す。

「やったー! お菓子お菓子!」

 急にマオははしゃぎだす。席で飛び上がらんばかりに喜んでいる。

「好きなだけ食べたらいいわ。どうせわたしは食べられないんだから」

 マオのはしゃぎように、少女はクスッと小さく笑う。

「え、食べないの? 一人で食べるのさみしいよ」

 マオは紙コップを少女に差しだした。

「……じゃあ、飲み物だけ」

 少女はしぶしぶコップを受け取る。

 マオはオレンジジュースを開け、それを少女のコップに注いだ。勢いよく注がれてもれそうになる。慌てて少女は「もういいわ」と言った。

「これ開けて」

 マオはスナック菓子の袋を少女に手渡した。

 少女は袋を開け、真ん中の席に置いた。

「それじゃ、乾杯」

 少女が音頭を取り、パーティーが始まった。

 二人とも一気にジュースを同時に飲み干した。マオはまっすぐお菓子に手を伸ばすが、少女はコップをドリンクホルダーに入れる。

 マオがスナック菓子を半分ほど食べ終えた時、少女は口を開いた。

「実はね、今日でわたしたちの旅は終わりなの」

 その言葉に、マオはスナック菓子を口に入れたまま固まる。大きな瞳を不思議そうに少女に向ける。

「終わり?」

 マオは口にお菓子を入れたまま訊く。

「そう、終わり。残念だけどね」

 少女は淡々と言った。

「えー、じゃあこれからどうするの?」

 マオは自分でジュースを注いで飲む。

「そうね……。また旅をしてもいいし、ここでやめて定住してもいいし」

 少女は両手の人差し指をそれぞれ立ててみせる。

「マオはどうしたい?」

 少女にそんなことを聞かれて、マオはポカーンと口を開けた。

「あたしが決めていいの?」

「いいわよ」

「じゃあ、旅する」

「そう、じゃあこれからもよろしくね」

「よろしくって?」

 マオは思わず訊き返す。

「また一年よろしくね」

 少女はニコッと笑った。

 狭い車内の中で、新たな一年が始まろうとしていた。

二十話は終わりです。二十一話をお楽しみに。

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