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第十九話:従者の話①

 何物にも、表と裏という物が存在する。

 それは、物流で栄えているこの地方都市にも当てはまる。

 表というのは、大動脈のように街を走っている大きな道路だ。遠くから機械や冷凍食品を運んできたトラックが、次々と街へ入って来ている。そのトラックの列は、そこから枝分かれした街道へと散っていく。そして逆に、街で加工された品物を遠くへ運ぶトラックが、枝分かれした道から大きな道路へと集まって来て、それぞれ目的の街へと旅立つ。この街を代表する光景だ。

 生産物が行ったり来たりを繰り返す所を表とするなら、廃棄物が溜められている場所は裏だと言える。郊外には、工場や物流管理センターなどの大規模な建物が所狭しと並ぶ。そしてそこから山の方に十五分ほど車を走らせると、光が届きにくい深い森の中に、生産過程で発生した副産物がまとめて放置されているのを見ることが出来る。車のタイヤや、金属疲労で使えなくなったロボットの部品が多数を占める。生ゴミも捨てられているのか、辺りには異臭が漂う。

 この世の掃き溜めと呼ぶべきこんな場所にも、人影があった。

 紺色の作業服を着た少女が一人、山となったガラクタのふもとをいじくっている。ショートヘアーで、背は百六十センチくらいある。歳は十四歳くらい。細い体に、小さい顔が乗っかっている。

 少女は、四方一メートルくらいの黒い箱を背負っていた。そこからは二本のアームが伸びており、それらを使ってガラクタをどかしている。時折、ゴミとなった機械を手に持った工具でこじ開け、中身を確認している。そのたびに、ため息をつく。

 ダメだ。少女はそうつぶやいて、その機械をアームで持ち上げ、横へどかした。ガシャンと派手な音がした。

「やっぱりね。さすがゴミの山。本当にゴミしかないわ」

 少女は、手をパンパンと叩いて汚れを取った。

 ゴミの山は森に囲まれていて、周囲から小鳥の鳴き声が聞こえてくるほど静かだ。他には、風の音、少女が歩く音、物をどかす音、そして――

「臭ーい」

 少女の近くのゴミ山の陰から、五~六歳ほどの女の子が姿を見せた。青色の半袖に灰色のジーパンを穿いている。女の子は、鼻をつまんで眉にしわを寄せた。片手で、小型ロボットのアームを持っている。

「臭いんだったら、レッカーの中で待っていればいいんじゃない?」

 少女は女の子にそう促した。そして、二人の近くに停まっているクレーン車を指さす。そのクレーン車は白いボディーで荷台がついていて、クレーンは赤色だ。

「中にいても臭いもん。それに、外にいた方が面白いし」

 女の子は、手に持っているロボットのアームを振り回した。空を切るシュルンシュルンという音がする。えいっと空めがけて投げると、それは放物線を描いてゴミ山を越えていき、向こう側にガシャンガシャンと落ちた。

 すると、レッカーと呼ばれたクレーン車はクレーンを伸ばすと、ロボットの四角い胴体部分を引っかけ、遠くへ投げ飛ばした。それは勢いよくゴミ山の真ん中に命中し、山をあっという間に崩す。

「うわあー、レッカーすごい! さすが!」

 女の子はキャッキャッと手を頭の上で叩いて喜ぶ。

 褒められて気分がいいのか、レッカーはクレーンを犬のしっぽのように振っている。

「こら、あなたたち、危ないわよ。誰かいたらどうするの」

 少女はアームを黒い箱の中へ収納し、それをレッカーの荷台へ置く。ふう、と一息ついた。

「大丈夫だよ、こんな所誰も来ないよ」

 女の子は自信たっぷりに胸を張る。

〈そうそう、こんな所に来るやつの気がしれないな〉

 レッカーは、プシュプシュと音を出す。

「まったく、レッカーまで……」

 またため息をつく。

 だが、少女はレッカーの言う通りだと思った。やっぱりゴミだからこそここへ捨てているのであって、何か売れそうな物が残っているのだと少しばかり期待して訪れる方がおかしいのだ。

 それにしても、ここはひどく空気が重苦しい所だ。そう少女は感じていた。単に、生ゴミの臭いがしているから、ではない。辺りを見回すと、様々なロボットの残骸が散らばっている。腕や足や胴体がたくさんあり、適当にくっつければまともなロボットがつくれそうな気がする。さすがに、人間の顔をしたロボットの頭は落ちていなかった。ここはロボットの墓場だ。

 墓場と言っても、幼い女の子には特に影響はないようだ。彼女にとっては、面白いおもちゃがたくさん落ちているという認識しかないのである。

 一応、ここをもう一度見てから帰ろう。少女は、女の子の名前を呼んで手をつなぎ、一緒にゴミ山探検に出発する。エイエイオー、と女の子は元気良く拳をあげた。


 やはり、さっき見た光景とまるで一緒で、特にめぼしいものはなさそうだ。もう帰るか、そう思って引き返そうとした時、

「誰かいるよ」

 女の子が少女の手を引っ張った。

 ちょうど、レッカーが派手に壊した山のふもとに、頭、腕、胴体、足がすべてつながったロボットが、落ちていた、というより、仰向けになって寝転がっていた。


2へ続きます。

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