第十七話:俺の戦争①
トラックの荷台から降りると、その村はもう戦場になっていた。
俺は一兵士にすぎないから、あまり詳しい作戦は知らされていないが、装甲車数台で突っ込んだ後、銃を持ったロボット兵士が攻め込むことになっていた。
民家があったと思われる場所は、ただのがれきの山と化している。岩をブロック状に加工して積み上げただけの家なぞ、装甲車で一撃で粉砕される。
辺りを見回すと、前陣を切る装甲車の向こうに、人間が数十人固まっている。よく目を凝らすと、いずれも男で、銃や金属の鎌や棒を持って応戦している。軍隊ではなさそうで、おそらく村人だろう。
隊長の指令で、俺たちは村へ散った。家の中に残った人間や逃げまどう人間たちを抹殺せよとのことだった。
早速、山の方へ走っていく人間の男を見つけた。歳は三十歳くらい。細身で、右足を若干引きずっている。
彼は俺のことに気がついていないようだ。無我夢中で逃げているのだろう。俺は背後から散弾銃を彼に向けて撃った。
無数の弾は彼の胴体に命中した。彼は数歩フラフラしながら歩いた後、その場にうつぶせで倒れた。
足で蹴って様子をうかがう。まだ生きているようだ。息をするのも辛そうにうめいている。
銃口を頭部に向けて撃つ。
もう一度蹴ってみた。何も反応はない。恐怖で固まった顔を見れば、一目瞭然だろう。
人間が逃げるとすれば山の方だ。隊長がそう言っていた。だから、俺も山の方へ歩いていくことにした。
五分ほど歩いていた時、突然角から何者かが飛び出してきた。俺とぶつかってその者は倒れる。
見ると、三歳ほどの子どもを抱えた女性だった。歳は二十代半ばといったところか。
女性はうめきながら立ち上がると、俺の姿を確認した。その瞬間、彼女は明後日の方へよたよたと歩いていく子どもを引きよせて胸に抱え、うずくまる。
「こ、子どもだけは見逃してください、わたしはどうなってもかまいませんから!」
震えて裏返った声で、俺に助けを請う。彼女は俺の目を真っすぐ見つめる。彼女の目は恐怖に満ちていた。
「子どもを離せ」
俺はそう言った。
女性は言う通りにし、抱いていた子どもを少し離れた所に座らせる。
俺は散弾銃を彼女の頭に撃った。数秒そのままの姿勢でいたが、仰向けに倒れた。蹴ってみるが、特に反応はない。
子どもが泣き始めた。この歳で死というものは理解していないだろうから、銃の音に驚いたのだろう。
俺は銃を地面に置いて、子供を抱き上げた。小さくても、俺が大きくて怖い音を出した人だということは理解しているらしい。手足をじたばたして逃れようとしている。
俺はこの子を壁に抑えつけた。なんか、不思議と子どもは殺したくないという気持ちが出てくるが、どうしてだろう。回路が壊れたのか。俺の使命は、人間をすべて殺すことだ。それに大人と子どもは関係ない。
片手を離すと、その手で子どもの首をつかむ。手の平で楽につかめるほど細い。そして、思いっ切り首をひねる。
鈍い音が子どもの首の中から聞こえた。とたんに、子どもの体から力が抜けた。
両手を離すと、子どもはずり落ちて地面に仰向けに倒れた。
子どもは、泣いていた時のくしゃくしゃな顔をしていて、目が開いたままだ。俺は目と口を閉じてやった。かろうじて、寝ているような顔に見える。そして、母親の隣に寝かせる。
銃を手に取ると、再び山を目指して歩いていった。
山の中腹まで歩いただろうか。岩だらけで草木がまったく生えていない殺風景な所だ。
平地になった所に山小屋が建っていた。周りには人影がない。ふと、その入口辺りの地面を見た。人の足跡だ。それも、まだ新しい。この中にいる。そう確信した俺は、勢いよくドアを開けた。
中には、女と子どもばかりだった。いや、銃を持った男が三人いる。数は三十人ほど。家の隅に固まっている。
俺が姿を現したとたん、高い声の悲鳴が響いた。そして、一斉に家の奥へなだれ込んでいく。
どうやら隠し通路があるらしい。狭いようで、人々は押し固められて上手く逃げられないようだ。
男三人が銃を撃ってきた。俺の体に当たる。
だが、防弾装甲を着ている俺にはたいしたダメージはない。俺は散弾銃を彼らに向け、二人殺した。
最後の一人が、隠し通路を逃げていく。他の人の姿はない。どうやら通路を通って逃げたようだ。
長身の俺は、かがんで進まないといけないため、上手く銃を撃てない。その男は小柄で、どんどん先へ行ってしまう。
その男が、俺に向かって何かを投げた。そして、それに向かって彼は銃を撃つ。
とたんに、それが爆発し、辺りが火の海となった。火薬と油が入った爆弾だったらしい。
俺は火の中を進んでいく。服が焼けて灰になっていくが、気にせず進む。
突然銃声がし、俺の真上の天井が爆発した。男が天井めがけて撃ったらしい。
天井はがれきと化し、落ちてくる。俺は巻き込まれ、あっという間に埋まってしまった。体を動かそうとするが、まったく言うことを聞かない。
俺はしばらく動けずにいたが、自動スリープモードに切り替わり、急速に意識を失っていった。
2へ続きます。




