第十五話:街頭インタビュー
「すみません、ちょっとインタビューいいですか?」
「……ええと、どちら様でしょう」
「ああ、申し訳ありません。私、この地方のローカルラジオ番組のパーソナリティーをしている者です。こうして街に出てインタビューを行っているのです。よろしければ、ご協力いただけないでしょうか」
「……はい、わたしはいいですけど、この子は人間なもので、この暑さはつらいのです。ですから、どこか建物の中なら構いません」
「ああ、そうですよね。私もロボットなもので、そこまで気が回りませんでした。失礼しました。カフェにでも入りましょうか。もちろん、代金は私がお支払いいたします」
「本当ですか! ねえマオ、ちょっとだけ寄り道してもいい?」
「いいけど、おやつは倍の量にしてね」
「うっ、まあ、考えておくわ」
「それでは、あそこにしましょうか」
「さて、飲み物が出てきたので、さっそく質問をしてもいいですか」
「はい、どうぞ」
「あ、その前にお断りを一つ。ラジオ番組なので、音声を録音させていただきます。そのかわり、お二人のお顔は撮りませんのでご安心ください」
「はい、分かりました」
「それでは、質問に入らせていただきます。あなた方の職業はなんでしょう」
「運送業です。売れそうなら何でも運びます」
「おお、女性二人で運送業は大変でしょう」
「クレーン車がちゃんと働いてくれるので、それで助かってます。それに、運んだ先の男やロボットたちも手伝ってくれるので」
「そうですよね、こんなにきれいな方々がいらっしゃったら、皆手伝いたくなりますよ」
「ねえ、マオ。わたしたちきれいだって」
「きれい? 服は汚いけど」
「こら、そこは黙っておいて」
「ハハハ、運送業でしたら服が汚れるのも仕方ないでしょう。この街ではあまり見かけないお顔ですけど、遠くからいらっしゃったんですか?」
「はい、旅をしながら仕事をしているので、相当離れてしまいましたね」
「ほう、そうなんですか。旅はいいですよね。どうして旅をしているのですか」
「色んなところを見ながら仕事をするのも楽しいと思いまして。なにより、この子に色んな経験をさせたいのです」
「人間の命は儚いですからね。早いうちに色んな経験をさせるのは教育的に良いことだと思います。妹思いの良いお姉さんですね」
「まあ、気がついたら子どもを育てながら仕事をしてました」
「人間を育てるのって大変ですよね。私も人間のアナウンサーを育成しているんですけど、なかなか育ってくれなくて困ってるんです」
「人間はちょっとずつ成長していくものですから。焦りは禁物です」
「そうですか。貴重なお言葉、ありがとうございます。そうだ、ところで先月政府から発表された、人工衰退率のこと、知ってます?」
「ああ確か、緩やかに減少している、という文面だった気がします」
「そうなんです。だんだんこの世界は人間が暮らしにくくなっているのです。それを補っているのが、私たちロボットなんです。これってすばらしいことだと思いませんか」
「まあ、ロボットの方がエキスパートですから、使えるようになるまで時間のかかる人間よりはましでしょう」
「そうですよね! 私もそう思います。もう人間に頼る必要はなくなります。そのことは、ロボットとして誇りに思いますね」
「そうですね。ロボットが活躍するのはいいことです」
「あなたはさきほど、人間は使えるようになるまで時間がかかるとおっしゃいましたね。はたしてこの世界で、人間は必要でしょうか」
「それはまた極論ですね……。いいところはありますけど、わたしは基本人間が嫌いなので、いなくなっても特に気にしないです」
「なるほど、あなたはそのようにお考えなのですね。どうして人間が嫌いなのかはプライバシーに関わると思うので、これ以上お聞きはしません。さぞ、お辛い思いをされたことでしょう」
「人間は戦争を幾度も繰り返してきました。わたしたちはそれを学ぶことが出来ます。そういう面では、人間はいい存在なのではないでしょうか」
「そうですね。ロボットの時代になっても、人間の歴史を繰り返しては意味がないですから。いやー、私とあなたは気が合いますねぇ」
「でも、人間にはいいところがあります。他人を思いやれる人も多くいます。何より、彼らは温かいです。寒いところでギュッと抱きしめると温かいのです。彼らには彼らにしかないものを持っています」
「おお、なんとお優しい。ということは、あなたは人間とロボットが共存してもよいとおっしゃるわけですね?」
「そうです。いい人が増えるのは悪くないと思います」
「おっと。マオさんが船をこぎはじめたので、そろそろインタビューを終わりにしましょうか。本日はありがとうございました」
「いえ、参考になれば幸いです」
「……ということを話したんだけれど、レッカーはどう思う?」
〈まあ、人間が嫌いという部分だけを上手く編集してつなぎ合わせて、世の中のロボットがいかに人間に対して不満を持っているか、という特集を組むつもりなんだろうな〉
「わたしも同感。まあ、特にこの街には興味がないから、別に構わないんだけど。……あ、そこ右に曲がって」
〈了解。そういうところは、ユキは冷たい。まあ、いいんだけど〉
「わたしはマオが、人間のいいところも悪いところも両方学んで育ってくれればそれでいいわ」
ユキは、自分に寄りかかって眠るマオの頭をそっとなでた。
十五話は終わりです。十六話をお楽しみに。




