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第十四話:人間観察

 とあるハンバーガー店の駐車場に、一台のクレーン車が止まった。

 そのクレーン車には何も搭載されていなく、荷台でクレーンがブラブラと揺れている。

 空はよい天気だ。入道雲があちこちにあるが、雨が降る予報は出ていない。外を散歩するには絶好の時間だろう。

 そのクレーン車の運転席から、少女が降りてきた。歳は十四歳くらい。ショートヘアーで、作業着を着ている。

 助手席から幼い女の子が出てきた。歳は五、六歳ほど。白い半そでシャツに白いスカートをはいている。背中まで伸びる髪が風でなびく。

 幼い女の子はイノシシのように店のドアに突撃すると、重そうにそれを開けた。

 クレーン車が自分でエンジンを切るのを確認すると、少女も女の子のあとをついていく。

 正午あたりだが、郊外にある店、しかも平日とあって、客は数えるほどしかいない。ほとんどが中年女性だが、一人だけ男がいる。

 その男は、幼い女の子がドアを開けると、その音が合図かのようにこちらを見てきた。

 誰かと待ち合わせでもしているのだろうか。そわそわしていて落ち着きがない男だ。紙とペンが手元にある。

 でも、とりあえず注文することにした。幼い女の子はとっくにカウンターにいて、メニューを見ている。

「安いのにしなさいよ、マオ」

 少女は幼い女の子にそう忠告した。

 マオと呼ばれた女の子は、メニューを指でなぞりながら見ている。その指は結構金額が高めな所にある。

「これがいい」

 そう言ってマオは、少女にメニューを見せた。彼女の指は一番上に書かれた、パンや具材が二段重ねのハンバーガーを指している。

「ダメ。てりやきバーガーにしなさい。一番安いから」

 少女にダメ出しをされて、マオはむくれた。

「たまにはあたしの食べたいものを食べたい! これがいい!」

「お金がないのはマオも知ってるでしょ? 我慢して。乾パンと野菜ジュースの食事よりはマシだと思いなさい」

「あれはもう飽きた。別のに変えてほしい」

「しょうがないじゃない。大安売りしていて大量に買っちゃったんだから。賞味期限というものがあるの」

「……お姉ちゃんはいつもそうだよね。何でも安いものを買ってる」

「安いものを買って何が悪いの? 食事にわざわざ高いものを選ぶ必要はないでしょ?」

「食事は楽しくないといけないんだよ」

 そんな風にいつもの言い争いをしていると、カウンターの向こうから声がした。

「あのう、お召し上がりでしょうか、お持ち帰りでしょうか」

 店員が戸惑った顔をしている。


 結局お姉ちゃんは妥協して、中間ぐらいの値段のハンバーガーを買った。

 二人とも、願いがかなわなくてムスッとした顔をしている。

 普段ならマオがペチャクチャ話しまくるのだが、当の本人は黙々とハンバーガーを口に運んでいた。

 ロボットであるお姉ちゃんは、この時間が一番暇だ。何もやることがなくて、辺りを見回してみた。

 すると、彼女はギョッとした。奥の席にいたはずの男が、すぐそばの席に移動してきているのだ。

 その男は、こちらを見ながら何やらメモを取っている。机には、紙とペンとコーヒーがある。

 お姉ちゃんが視線を合わせると、その男は慌てたように目をそらした。

 怪しい。彼女はそう確信した。

 世の中にはいろんな人がいる。そしていろんな商売がある。例えば、女の子を富豪に売る仕事。彼女は旅をしてきて、幾度かそんな商売をしている人たちに出会った。乱闘になったこともあった。もちろん、それらをかいくぐってここまで旅を続けている。

「すみません」

 ちょうど近くにいた女性店員を呼んだ。

「なんでしょう」

「あの近くにいる男、わたしたちをずっと見ていて怪しいんです。何とかなりませんか」

 男に聴かれないように、小さな声で尋ねた。

 するとその店員は、「ああ」と納得したような声を出した。

「彼、小説家なんですよ」

「小説家?」

 お姉ちゃんは首をかしげた。

「はい、よくこちらへいらっしゃって、アイデアを練っているんです。あることで有名な作家さんなんです」

「あること?」

 よっぽど売れているのか、あるいはスキャンダルを起こしたことがあるのか。

「はい、自作に登場するキャラを考える上で、その主人公に忠実になりきるらしいです」

「というと?」

「警察小説を書くために本当に警察官になったり、放火をテーマにした小説を書くために廃屋を燃やしたり。ああそうそう、崖から滑落する場面を書きたいがために、崖から飛び下りたこともあるみたいで」

 ずいぶん変人だな。これだったら、女の子を売る商売をしている奴らの方がまだマシかもしれない。

「ということは、今わたしたちをずっと観察しているのも、何か理由があるんでしょうか」

「うーん、他の店員からちょっとしか聞いていないんですけど、売れない作家がとあるお店で身も知らない姉妹を殺害するお話を構想中だとか」

 お姉ちゃんはマオが食べているものを全てゴミ箱へぶちこむと、ギャーギャーわめくマオを引っ張ってお店を飛び出した。

十四話は終わりです。十五話をお楽しみに。

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