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第十三話:麻薬騒動③

〈参ったことになったな〉

 レッカーはそうつぶやいた。

 ここは街外れの山道。辺りは森林しかなく、もちろん街灯など一つもない。レッカーのライトだけが頼りだった。

「そうね。とんでもない仕事が舞いこんできたものだわ」

 ハア、とユキはため息をつく。

 レッカーの荷台には、麻薬入りの水がたっぷり入った巨大な筒型のタンクが積まれている。それは頑丈なロープに繋がれてビニールシートで覆われていて、さらに闇夜に紛れて、いったい何を運んでいるのか、傍目からは分からない。

 地図によると、このまま山のふもとをなぞるように進んでいくといいらしい。確かに、この道はまったく整備されていない砂利道で、狭くてガタガタだ。ただ、砂利のわだちが出来ているから、それに沿って走れば脱輪することはないだろう。

〈もしかして俺たち、今犯罪をしてるんじゃないか?〉

 レッカーは、ふとそんなことを言う。

「その通りよ。見つかったら牢屋行きでしょうね。あなたはもうボロ車だから、解体されちゃうかも」

 思わず口が滑った。

 レッカーは急停止した。「ワッ!」とユキはフロントガラスに頭をぶつけそうになる。反動で荷台が大きく揺れた。

〈ボロだけど動けないわけじゃない〉

 不機嫌そうに言うと、再び走り出す。

「それは失礼。ボロじゃなくて経験豊富と言うべきだったわね」

 クスッと彼女は笑った。

〈こんな犯罪に等しい仕事なんてやったことないがな〉

 さすがのレッカーも、麻薬は運んだことがないらしい。

 最近は、金属に限らず売れるものなら何でも運ぶようになってきた。そうしないと生計が成り立たないのだ。マオの食費とレッカーの燃料代に多く取られてしまう。

「食べていくって、大変なのね」

 水素電池で動いているユキ自体は関係ないけれど、他人事ではないことにため息をつく。

 いつも助手席にいるマオは、さっきの街のホテルに残してきた。まさか今回の仕事に同行させるわけにはいかない。本人はかなり不満そうだったが、仕事のためだと説得すると、どうにか納得してくれた。

「お土産買ってきてね」

 マオはそれが条件であるかのように言った。

 抜け目がないな、とユキは思った。だんだん自分に似てきたような気がする。いや、気のせいだろう。


 三十分ほど走っても、景色は変わらない。ただ、少し道が広くなった気がする。ふと地図を見ると、大きな道に入っていることが分かる。どうやらここの道を通るのが正当なルートで、今まで自分たちは迂回してきたようだ。

 そうしてずっと走っていると、地平線の向こうに明かりが見える。目を凝らしてよく見てみると、それは車のライトだった。

 どうしてあんなところに止まっているのだろう。燃料でも切れたのだろうか。だんだん近づいても、周りには特に何もない。

 早く仕事を終わらせたいので、通り過ぎようとした時、その車から人影が現れ、一人が両手を広げて、道をふさいだ。

「レッカー!」

 ユキの叫びで、レッカーは急ブレーキをかけた。

 その車の前に移動してレッカーを止めると、ユキは飛び降りた。そのジープの中には四十代くらいのひげ面の男が二人乗っていた。ユキの姿を見ると、二人とも降りてきた。

「何かあったんですか?」

 ユキはそう尋ねてみた。パッと見た限り、どこか壊れているというわけではなさそうだ。

「いや、人を待っていてね」

 運転席に座っていた男がニヤリと笑った。

「そう、今までずっとね」

 助手席にいた男が、レッカーの正面に回って、ナンバーを確認する。

「人を? こんなところでですか?」

 ユキは首をかしげる。

 ナンバーを確認した男は、もう一人に何かぼそぼそと話している。もう一人の男は、再びニヤリと笑う。

 すると運転席にいた男は、突然無線を取り出した。

「被疑者と遭遇。被疑者と遭遇。今すぐ警戒態勢をとれ」

 その瞬間、森の中からたくさんの車のライトが辺りを照らした。そして森から次々と車が出てくると、あっという間に進行方向の道がふさがれてしまった。

 え、とユキが言葉を漏らして後ろをふり返ると、走ってきた方向もたくさんの車で道をふさいでいた。

 二人の男はレッカーの荷台に乗って、タンクをいじくり始めた。

 それに反抗し、レッカーが前に動いたり後ろに動いたりを繰り返して振り払おうとする。一人が荷台から投げだされた。

「やめなさい、レッカー」

 ユキは叫んだ。すると、レッカーはおとなしくエンジンを切った。

「あなたたちは警察ですか。よくこの場所が分かりましたね」

 彼女は、疲れ切ったようにレッカーの荷台にもたれかかった。

「いや、俺たちは警察じゃねぇ。山賊だ。警察に協力して、麻薬密輸を取り仕舞ってるのさ」

 運転席の男が、荷台からそう言った。

「協力……」

「ああ、俺たちも、たまには警察に恩を売っておかないと、色々仕事が面倒になるんでな。ありがたくやらせてもらってる」

 前後の車からたくさんの人が降りてくる。

「お前たちの行動は、会社に忍び込ませたスパイから聞いていた。全て筒抜けだったよ」

 どうやら、警察の目がとっくにあの会社につけられていたようだ。

「警察の検挙率が高い理由、知ってるか? この山岳地帯を知り尽くしている俺たち山賊と協力してるからなんだ」

 さきほど荷台から投げだされた男が、尻を擦りながら言った。

「とにかく、お前たちは逮捕だ。なあに、脅されていたんだから、罰金だけで済むと思うぜ」

 運転席の男は、三度目のニヤリとした笑みを見せた。


 結局、ユキは元の街へ戻され、警察で罰金を支払って終わった。全資産の半分を取られてしまった。

〈おいしい仕事って、裏があるんだな〉

 沈んだエンジン音でレッカーは言う。

「マオになんて顔して会ったらいいか分からないわ」

 一人と一台は、トロトロと大通りを走って消えていった。

十三話は終わりです。十四話をお楽しみに。

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