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第九話:マオのおつかい②

 さて、一人になったマオは早速メモを見て、何を買うか確かめます。最初はやはり鯖です。

 幸い魚コーナーはすぐに見つかりました。売り場の角に大きめにスペースが取られています。小さい店だったから良かったものの、これが普段立ち寄る大型スーパーであったなら迷子になっていたことでしょう。

 しかし、マオの興味は魚コーナーから別の所に移りました。それより手前の辺りに、さっきからお年寄りが集まっているのです。テーブルやイス、ソファがあり、それらはすべて埋まっていて、座りきれなくて立っている人も大勢います。

 人がたくさん集まっている所に興味を持つのが人間という生き物で、マオもそれは例外ではなく、自然と足がそちらへ向けられていました。

 お年寄りたちは、どこの家の誰々が近く結婚するとか、あのやんちゃでグレたあの子がいよいよお嫁に行くのかとか、それなら皆で盛大に送り出そうとか、高揚した様子で雑談をしていました。マオは、猫の恐ろしさを忘れたネズミのように警戒心をまったく持たずに近寄りました。すると、早速ソファの左端に座っている背の小さいおばあちゃんがマオに気がつきました。

「あら、可愛い子ね」

 おばあちゃんは、犬や猫をあやすように手招きして、こっちへ来るように誘っています。彼女の言葉と仕草に反応し、周りのお年寄りは一斉にマオを見下ろしました。

「本当だ。お豆さんのように小さくて可愛いねぇ。お名前は?」

 おばあちゃんのすぐ近くに立っているおばさんが、腰を落として目線を合わせて尋ねます。

「マオ……」

 場の空気に任せるように、彼女はただ自分の名前だけを言いました。

「マオちゃんか。良い名前だ。将来は立派なお嫁さんになるよ」

「そうだね。きっとこの中の孫の誰かと……。お前さんの孫なんかどうだい?」

「ダメダメ。元気なのはいいが自分勝手で、いつも弟を泣かしてる。弟が泥だらけにさせられてるのを見ると、あんな子にこんな可愛い子はやれないな」

「おいおい、あんたはこの子の父親か? 変なこと言われて、マオちゃんも困った顔をしてるじゃないか」

 たしかに、おいてけぼりにされて話しが進んでいくのを見て、マオは何をしゃべったらいいか分からないでいます。

「ごめんねぇ。マオちゃんは買い物に来たの?」

 ソファの左端のおばあちゃんが再び尋ねます。

「うん」

 マオはコクッとうなずきます。

「何を買いに来たの?」

 そう聞かれて、メモ用紙をおばあちゃんに手渡しました。

「なるほど……。若い子にしてはあっさりした料理を好むんだねぇ。これだったら鯖の味噌煮がつくれそう」

「なあ、マオちゃん。良かったら後で家に遊びにくるかい? 今は孫は出かけてるから、安心だぞ」

 話しをさえぎって、はげ頭のおじいさんがマオの手を取ろうとします。しかしそれは、六十代くらいのおじさんに払われました。

「いつも思ってたけど、あんたは若い子が好みなのはいいがそれが過ぎるんだよな。二十年くらい前、たまたま町に立ち寄った若いお姉ちゃんを家に連れこんで、女房に怒られたんだろ?」

「昔の話だ、それは。今はそんなやましい考えは持っていない。ただ、マオちゃんが可愛いだけだ」

「それを、たしかロリコンというんじゃなかったかな」

 お年寄りの中でクスクス笑いが蔓延していき、それが恥ずかしくなったのか、はげ頭のじいちゃんは、さっさとその場を離れて行きました。ただ、店から出る気は無いようで、魚コーナーのあたりで足を止めました。

「あいつは、スイカをつくらせたら天下一品なんだが、それ以外はからっきしだからなぁ」

 どこからともなくそんな言葉が出ると、また小さい笑いが起きます。

「あれ、マオちゃん、もう行くの?」

 マオは、静かにその場を離れようとしていました。そろそろ買い物をしなければなりません。話しに飽きたというのもありますけど。

「買い物するんだろうが。スーパーを溜まり場にしてるのは俺たちぐらいだろうしな」

「そうだそうだ。それなら、これを忘れてるよ」

 小さいおばあちゃんは、メモ用紙をマオに返しました。

「鯖を買うのかい? どこにあるかは分かる?」

「うん」

 マオは目的の場所を指さします。

「なら、大丈夫だな。……って、まだあいつがいるじゃないか。仕方ない。老体に鞭を振るおうかね」

 ソファの真ん中を陣取っている一番年上のおじいさんが、杖を使って立ち上がりました。九十歳は過ぎているでしょう。

「大将が行くんなら俺も付き合うぜ。……ほら、お前も行くぞ」

 五十代のおじさんは、隣に立っているおばさんを見ました。

「あんたに言われなくても、最初から行くつもりだったよ」

「何言ってやがる。俺は見逃さなかったぞ。大将が席を離れると分かった瞬間、嬉しそうな顔をしたじゃないか」

「あんたこそ、何であたしが席に座ろうなんて考えてると思ったのさ」

「俺はそこまで言ってないだろ」

「そんな感じのことを言ってたでしょ」

 夫婦の喧嘩は放っておこうといった様子で、他の皆はマオに付き従うように後ろをゾロゾロと歩いて行きます。

 マオは、最初は自分の後ろを大勢のお年寄りがついてくるのに戸惑っていましたが、すぐにお偉いさんになった気分で、魚コーナーに向かいました。エロじいちゃんの脅威は大将を初めとする男衆が抑え、彼女は鯖の入ったパックを一つ手に取りました。

「お姉ちゃんがいるんだろ? だったらこっちがいいよ」

 あるおばさんが、二つ入ったものをくれました。一つずつ買うよりお得です。

「お姉ちゃん、鯖は食べないもん……」

 マオは寂しそうにつぶやきました。

「何だい、お姉ちゃんなのに好き嫌いを言うのかい? 残しちゃダメって、今度言ってやりな」

 おばあちゃんはケラケラと笑いました。

「違うよ、お姉ちゃんはロボットだから食べないんだよ」

 マオは、至極もっともな風に言いました。

「面白いことを言うねぇ。じゃあ、君のママはロボットと人間を産んだのかい?」

 皆がハハハと笑います。

 何かこれ以上しゃべるのも面倒くさいので、マオは次の品を買うために移動します。

 それからもずっと、お年寄りはマオの買い物に付き合い、買い物のアドバイスをしながら、雑談を繰り広げました。


「じゃーねー。また来てねー!」

 スーパーの前でお年寄りは解散し、遠く先まで歩いていっても彼らはマオに手を振ったのでした。

 外で買った物を受け取ったユキは、ただただ驚いた顔をしました。

「あなたって不思議な力を持っているのね……」

 袋の中には、メモに書いてあったもの以上の品がたくさん入っていました。残りのお金を見せてもらうと、たいして減っていませんでした。

「この町に定住しようかな」

 ユキは少しニヤけました。

〈ブルンブルン!〉

 レッカーが強くエンジンをふかせます。

「分かってる分かってる、冗談よ」

 ところで、とユキは袋の中にあるメロンを一個取り出しました。

「これ、形がいびつじゃない? これもスーパーに売ってたの?」

「それ、お姉ちゃんと同じ格好したおじいちゃんがくれたんだよ。余ったからあげるって」

 ははあ、とユキは少し小さめなメロンをマオに手渡しながら感心します。

 マオは、ふふんと勝ち誇ったようにそれをしばらくなでていました。

これにて終了です。ありがとうございました。

そして、この小説の連載も、このお話にて一旦終わりにしたいと思います。一度キャラやストーリーを練り直したいのです。ただ、次の更新がいつになるかはわかりません。

今までありがとうございました。また次の機会にお会いしましょう。

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