第百二十七話:絵本の中のお花畑
森を抜けた先に広がっていたのは、岩がゴロゴロしている砂漠だった。
「あれ? ここにお花畑があるんじゃなかった?」
レッカーを降りたマオが、辺りをキョロキョロと見回す。左手には、大きくて二十ページほどある絵本を持っている。
「そうね、お話の最後に出てくるお花畑は、確かにここにあることになってるわね」
ユキが淡々と答えた。
〈百年くらい前の作品だからなぁ。景色も変わるだろう〉
レッカーが、しみじみと言う。
ユキは、マオにレッカーの言葉を教えてやる。
「そっかー。残念だな。ここで、この男の子と女の子みたいに、お花畑で寝転んでみたいって思ったのに……」
シュン……とマオはうなだれる。
「戦争で、ロボットたちの拠点になっていたのが大きいと思うわ」
「拠点って?」
「ここにずっといて、ここから出かけていって人間達を襲っていたの」
「じゃあ、いっぱい踏み潰されたんだ?」
「そうね。いっぱいね」
「かわいそう……」
すると、レッカーがクレーンで、自分の荷台から小さな布の袋を吊り下げて、二人の近くに下ろした。
〈まさか、この花がたった一つの花になるとはな……〉
これはマオが、お花畑に自分のお花を植えたい、とお店でユキに買ってもらったものだった。
「このお花、植えても一人で寂しくないかな」
マオが、袋を拾い上げて、ユキを見上げる。
「きっと、絵本みたいにお花畑になるわよ、いつか」
そうして、二人と一台は、岩だらけの砂漠の一角に、一輪の花を植えて、その場を後にした。
それから、花が二つ三つと、少しずつ増えていくのだが、それを二人と一台は知るよしもない。
次話をお楽しみに。




