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第百二十一話:商店街の写真【リーナ・ジーン編】①

 コンクリート製の高層ビルがいくつも並ぶ地方都市の郊外に、旧市街がある。

 食料を街で買い込んだリーナ・ジーン・アキの三人は、次の街へ向かうため、旧市街を歩いていた。


「さっき買い物してたビル街とは全然違うねー。これぞ戦争の爪痕って感じ」


 リーナは、自分のリュックだけを背負って、のんきな顔をして軽い足取りで歩いている。

 薄いコンクリートの破片を踏むと、パキッという乾いた音がした。


『三十年以上前の戦争の時に、ここは跡形もなく破壊され尽くされたらしいよ。今にも倒れそうなビルでいっぱい。近くを通ったら、崩壊に巻き込まれるかも』


 キャタピラで走りながら、リーナの後に続くジーン。

 買い物の荷物は、すべて彼の口の中に収納されている。

 キャタピラでコンクリートの破片を踏んだら、バコッという音をたてて半分に割れた。

 数百メートル先に点在するように建っているビルは、あちこち崩れていて、壁がなくなって中が丸見えな所もある。


「以前はここに何があったんでしょう。今歩いているこの辺には、ビルとがれきの山の他は、だだっ広い平地が続いているだけですけど……。足下は、コンクリートの破片とか小石ばかりですし」


 アキが一番後ろを歩いていて、ずっと下ばかり向いている。


『ほら、よく見て。数メートル先に、木の板でできた商店の看板の一部が落ちてる』

「本当ですね……。服、と書いてあったみたいです。かすれていてはっきりとは読めませんが。この辺りに服屋さんが昔あったのかも……」

『あるいは、雨風でここまで飛ばされてきたか……。あ、ほら。ここは道路だったんだよ。コンクリートの破片や小石をどけたら、平らなコンクリートの道が出てきた。まあ、あちこち穴ボコだらけだけど』


 ジーンが、アームで地面の石などをよけながら言った。

 立ち止まって地面を見始めた二人に気づかず、先に歩いていたリーナは、二十メートルほど離れたところで気づき、振り返った。


「ねぇ、どーしたの? 早く行こうよ。ここにはお店もホテルも何もないんだから、いても面白くないよ」

『まあ、そんな不満そうな顔をしないでよ。ぼくらはノスタルジーにひたってるのさ』

「のす……? 何それ?」

『昔は良かったねぇ、みたいな話』

「じいちゃんばあちゃんみたいなトークテーマだね」



 三人は再び歩き出した。

 ビルの残骸が立ち並んでいたエリアを抜けると、平屋や二階建ての木造建築物が等間隔に建っているところに入った。

 大型車が一台ようやく通れそうな広さしかない道路の左右に、それらの建物がある。


「商店街……ですかね」


 アキは、すっかりボロボロになっているそれらの建物を、キョロキョロと見回している。

 時々立ち止まっては、取れかかったり下に落ちていたり半分ほどしか残っていない看板を見に行って、判読しようとしている。


『そうだろうね。道が狭くて軍用車が入ってこれなかったんだろうけど、さっきのエリアと比べると、建物は残ってる方だ。まあ、土台から崩壊してる店舗がたくさんあるね』


 先ほどまで、春の爽やかな風が吹いていたのだが、急に突風が吹き荒れるようになってきた。


「イヤだー。目にゴミが入ったー。口の中もジャリジャリする」


 リーナが、ペッペッと地面につばをはいた。


『ちょっと建物の中に入ろうか』

「入って大丈夫ですか? 崩れませんか?」

『ちょっと待って……。今スキャンした限りだと、今目の前に建っているこれはまだしっかり建っているから、雨風をしのげそう』

「ジーンさん、そんな機能まであるんですね……。なんでそんなにハイテクなんですか?」

『それは企業秘密ー』

「すごいでしょ。ジーンはすごいんだから!」

『なんでリーナが勝ち誇ったような顔をしてるのさ』


 一行は、その建物に入った。

 ここは食料品店だったようだ。

 都会にあるコンビニと同じくらいの店舗面積で、木でつくられた棚がいくつも並んでいるが、倒れてしまっているものもある。

 床には、商品だったものが散乱していて、足の踏み場が少なくなっている。

 ガラスの窓は割れていなく、そこから日の光が入ってきて、店内は明るい。


「見て見て!」


 一番先に入ったリーナが、床から拾ったものを二人に見せた。


「細長いブロック状のお菓子ですね。栄養がバランス良く取れるようです。これがどうかしましたか?」

『……あっ、箱の右下を見て。消費期限が三十二年前に切れてる』

「本当ですね……! 三十年以上もここに残ってるなんて……」

「そうそう! チョコレート味なんだって! 腐ってなかったら食べたかったなぁって思って」


 リーナは、その黄色い箱に入ったお菓子をポイッと捨てた。



 突風は三十分ほど続いた。

 その間、砂利が巻き上げられて砂嵐になり、向かいに建っている建物すら見えなくなった。

 窓ガラスにピシピシと細かい石が当たり、風がガタガタと窓枠をきしませる。

 その間、リーナはお店の奥にあるレジカウンターの上に、どっかりと座って足を台からダランと下ろしていた。

 ジーンとアキは、ゆっくりと店内やバックヤードを見て回っている。


「ジーンさん、未開封の化粧品があるんですけど、これって使用期限ってあるんですか?」

『どうだろう……。ぼくのデータベースにはその情報はないんだ。パッケージには何も記載が見当たらないね。試しに使ってみたら?』

「でも、これを使って肌が荒れたらイヤなので……。まずは二の腕とか目立たない所に塗ってみます」

『あ、それならリーナに塗って試せば? リーナは肌が浅黒くて、元から荒れてるから問題ないよ』

「あん!?」


 ジーンは、リーナに売り物だった缶ジュースをぶつけられた。

 頑丈な頭にぶつかった瞬間、缶に穴が開いて中身がぶちまけられ、砂糖が大量に使われた液体がべっとりとジーンの頭にかかった。


『何するのさー! 汚いじゃーん!』

「あたしの肌、汚いって言ったんだもん。こんなにピチピチなのに」

『肌に含まれる水分量は、確かに多いと思うよ。でも、紫外線をたくさん浴びたり偏った食事のせいで、少し荒れてる』

「そんなに冷静に分析しなくていいんだけど!?」

『じゃあ、今日から好き嫌いしないで、バランス取れた食事する?』

「好きなものしか食べなーい」

『ダメじゃん』


 二人の口げんかを、まあまあとアキがなだめる。


「今夜は私がご飯をつくります。リーナさんの好みも取り入れつつ、栄養バランスを考えた食事にします」

「本当!? 楽しみにしてるね」

『やれやれ』



2へ続きます。

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