第百二十話:公園の住人
ユキたちは、公園の整備の仕事をしていた。
閑静な住宅街の一角に、その公園はある。
四方二百メートルほどを、緑色に塗られた金属の柵が囲っていて、入り口の部分だけ柵が途切れている。
高さ一メートル、横五十センチほどの石板が入り口に建っていて、公園の名前が刻まれていた。
公園の中を、ゆっくりと自動芝刈り機が走っている。
円盤状の胴体の下に、車輪と刃が付いていて、それで走りながら、夏の日差しを浴びてグングン成長した雑草を刈っていく。
ユキは、熊の爪のような鉤が付いた、柄の長い道具を使って、機械が刈った雑草や小石を、レッカーの停まっている公園の中央へ集めていた。
レッカーの隣には、革製の大きな袋があって、ある程度草などが溜まって、こんもりと山になったら、まとめてそこに詰めていく。
「重ーい!」
白いタンクトップにオレンジ色の作業着のズボン姿のマオは、額にびっしりと汗をかきながら、顔に力を入れて、ユキと同じ道具を使って草を集めていた。
ただ、草などがまとわりついた道具はマオには重く、袋の辺りにまで運ぶのは一苦労だ。
「大変だったら、マオはわたしが集めた草を袋に入れてくれればいいわよ」
離れた所からユキが言った。
「うん、そうする」
マオは、道具を地面に放り出し、袋の近くに置いてある大きなチリトリで、草をすくって袋に入れ始めた。
公園の入り口は南側にあって、北側には林があった。
穏やかな風が林の中を通って、公園を吹き抜けていく。
マオとユキとレッカーを、草木や土の匂いが包む。
林の中に立っている木々に、数羽の小鳥がいて、チュンチュンと鳴いていた。
入道雲が空へ伸びていて、その周りは色の濃い青空が広がっている。
〈リスがいるぞ〉
ふと、レッカーが言った。
「リス?」
ユキが訊いた。
〈公園の中に一本だけ立ってる木の下だ〉
東側の柵のすぐ近くに、十メートルほどの針葉樹が立っていて、そこに茶色の毛皮をしたリスが一匹、こちらをじいっと見ている。
「リスいるの?」
マオは手を止めて、ユキに尋ねる。
「ほら、あの木の下に」
ユキは指をさした。
「本当だ!」
マオがチリトリをその辺に投げ捨てて、リスの方に走っていく。
リスは慌てて木を垂直に登っていった。
マオは、木の根元まで来て、顔を上げ、リスのいなくなった方を観察する。
「いないよー? どこに行ったの?」
すると、ユキが近づいてきて、
「たぶん、木の洞に入ったんだと思う」
「うろ? うろって?」
「木にあいている穴のことよ。そこを巣にしているのかもしれないわね」
「巣かぁ……。もしかして、木の中って、リスのおうちなのかな」
「おうち?」
「そう! リビングがあって、寝るところとか、トイレとか。あ、トイレは外でするのかな? リスってシャワー浴びる? 雨でも浴びてる?」
そんなものはない、と本当のことを言えば、マオの夢を壊すと思い、ユキは、
「この木はきっと、あのリスの一軒家なのかもね」
〈こんなに大きな木だ。もしかしたら、他にもリスが住んでいるかもしれない〉
二人と一台は、少しの間仕事をする手を止めて、公園の住人が住む家を眺めていた。
次話をお楽しみに。




