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第百十八話:11周年

 その村で唯一のスーパーを、ユキたちは訪れた。

 スーパーといっても、都会にあるコンビニより一回り大きいくらいの広さだ。

 買い物客は、ほとんどが地域住民で、たまにユキたちみたいな旅人が来るくらい。


〈11周年みたいだな〉


 スーパーの駐車場に駐車したレッカーが、お店の入り口ではためく長方形の旗を見た。

 数字の部分だけが、上から布を縫い付けられている。

 そこには、『創立11周年!』と書かれていた。


「11周年? きっと食料が安いわ。いい時に立ち寄れたわね」


 安いものに目がないユキが、少し興奮した表情で言った。


「11? 10とか、15じゃなくて? なんか変!」


 マオが、唯一読める数字だけを見て、ケラケラ笑う。


「マオ、そういうのは、『キリが悪い』って言うのよ」


 ユキが優しく教えてあげた。


「そうなんだ! なんで変なことやってるの?」

「お店屋さんは、何か理由をつけて安く売るのが仕事だからよ。キリが悪くてもいいの」

「ふうん?」


 マオは、半分分かったがもう半分は分からず首をかしげる。


「じゃあ、買い物してくるわね」


 ユキはマオを連れて、レッカーにそう言い残して、お店へ入った。



 特売だけあって、店内はごった返している。

 お店の入り口に、『店長』と書かれた名札をした七十代くらいの男性が立って、「いらっしゃい!」と大きな声でお客さんに声かけをしている。


「お! お嬢さんたち、いらっしゃい! 見かけない顔だけど、旅人さんか?」

「ええ。これからこの先の森を越えて大きな街まで行かないといけないので、食料を買い込もうかと思いまして」

「そうか! じっくり選んでいってくれ! もしかして、二人で旅をしてるのか?」

「いえ、あそこに停まっているクレーン車も一緒です」

「そうかそうか! それは大変だ! なら、商品を選び終わったら、俺の所に来い! 全部一割引してやるから。元々値下がりしてるから、さらにお得だぞ」

「え、本当ですか!?」

「ああ、本当だとも。さあさあ、早く選んできなさい。品切れになる前にな!」



 終始笑顔な店長に見送られ、ユキとマオは手をつないで店内を物色する。

 ユキが値段と容量をじっくりと見比べながら品定めしていると、


「お! さっき店長さんに声かけされたお嬢さんたちだな?」


 買い物客らしき五十代くらいの男性に声をかけられた。

 格好から、近所に住んでいると思われる。


「ええ、そうですね」

「あの店長、仕事は大ざっぱなんだけど、みんなに優しいんだ。昔ながらの親父みたいな感じさ」

「そうなんですね」


 あいにく、商品選びに夢中なユキは、男性を見ずに相づちだけ打っていて、マオだけが男性を見上げて、興味深げにうんうんとうなづいている。


「ねえおじさん、11周年ってキリが悪くない?」


 マオが唐突に質問した。


「キリが? 確かに悪いかもしれんが、お店は何か理由を付けて特売をやりたいんじゃないかね。まあ、去年は10周年記念セールはやらなかったんだけど」

「10はやらなかったの? キリがいいのに? なんで?」

「俺も気になって、店長に聞いてみたんだよ。そしたら、『いつもと違って特別なことをしなくちゃいけなくなるから、やらない』って言ったんだ。意味分からないよな? 10周年なんて、みんなでお祝いするべきことなのにさ」

「あたしも意味分かんない!」

「だよなぁ。そしたらあの店長さん、続けてこう言ったんだ。『いつも通り仕事を淡々とこなすのがいいんだ』って。大ざっぱというか、適当というか……」

「店長さんに、聞いてみてもいいかな?」

「おう! ぜひ聞いてみたらいい。子どもが聞いたらあの店長さん、なんて言うのか楽しみだ。おい、そこのお姉さん、妹さんがあっちに行くぞ」


 男性の言葉に、ユキはすばやく立ち上がり、一旦商品を棚に戻して、走っていくマオを追いかけた。



「ねえ、なんで10周年はやらなかったの?」


 マオが店長に聞いていた。


「何となく? 気分が乗らなくて? 確かそんな感じだった気がするなぁ」


 店長は、あごに手を当てて、うーむと考えている。


「あ! あたし、いいこと思いついたよ!」


 マオは、手招きすると、店長に耳を貸すように訴える。

 店長はしゃがんで、マオに耳を近づけた。

 そして、彼女のたった一言を聞くと、


「ああ! それいいかもな! どれどれ……」


 店長は、入り口のドアのポスターに書かれた、『11周年』の『11』という数字を、持っていた黒いマジックペンで線を引いて消すと、その右隣に、『10+1』と書き足した。

 そして、


「いらっしゃい! 今日は10+1周年セールだ! ゆっくり買い物していってくれ!」


 店長の、低くて大きな声が店内に響き渡った。

 その隣で、マオが左右の腰に手を当てて、勝ち誇ったような顔をしていた。

拙作、『少女は何を拾う』が2/14で、連載開始11周年になったので、記念に書いてみました。

登場する店長と同じく、この作品でも去年の10周年の時に、何もやってません。

淡々と話数を重ねるのもいいと思うんですよ。

では、次話をお楽しみに。

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