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第百十七話:猫の父とアンドロイドの娘②

「まったく! こんなことが起きるなんて!」


 おしゃれな服から庶民が低価格で買える服まで取りそろえている、大通りに面して建っているお店に、ユキとマオはいた。

 二人の目の前で顔を真っ赤にして怒っているのは、店主の男だ。

 七十代くらいで、小太り。

 三人は、ショーウインドウの中にいて、そこに立っていたはずのアンドロイドに関する話をしている。


「二日前、閉店前にショーウインドウを確認したときには、すでに少女のアンドロイドはいなかったということですね?」


 ユキは、運送会社から事前に聞かされていた情報を復唱する。


「ああ、そうだ。その日は、一日中お店の中で作業があって、ショーウインドウのことに気を配る余裕がなかったんだが、それがこの有り様だよ!」


 店主は、少女のアンドロイドが立っていたその場所で、ダンッと右足を勢いよく踏みならした。


「お店の内部からショーウインドウにつながるセキュリティと、そこを監視しているカメラの機能を同時に停止させるというのは、すごいハッキング技術を持っている人物なのですね」

「人物じゃない。猫だ」

「猫?」

「これを見てみろ」


 店主は、持っていたタブレットを起動し、監視カメラの映像を再生してみせる。

 自動ドアから店内に入ってきて、ショーウインドウにつながるドアの横に設置されている、セキュリティの機械の前で立ち止まり、監視カメラの方をちらっと見た。


「猫だ! 可愛い」


 マオが背伸びして、画面を見る。

 店主は、ふんっと機嫌が悪そうに鼻を鳴らした。

 猫の尻尾が伸びて機械に接続されると、突然画面が真っ暗になった。


「見た目は、どこにでもいそうな灰色の猫だが、こいつはきっと相当ハッキング技術に優れたロボットだ」


 店主はタブレットをスリープモードにした。

 ユキには、店主がこの猫が犯人だと決めつけているように感じたので、確認した。


「ただ、この画像だけだと、猫が機械をいじっただけしか分かりません。その少女型アンドロイドを連れ去った所が映っていませんが」

「盗まれたことに気づいた次の日、俺は通行人を呼び止めて聞きこみをしていたんだ。そしたら何人か、灰色の猫と少女が店から出てきて走っていくのを見たらしい。な、これは確かな情報だろ?」

「そうですね……。目撃情報があるのなら、確率は多少は上がるかと」

「あと、この商店街のみんなで自治会を結成していてな、みんなでお金を出しあって、この地域一帯に防犯カメラを仕掛けているんだ。この店の前を映したカメラに、その二人組が映っていたよ」

「なるほど。確かな証拠ですね。犯人を捕まえて、この二つの情報を元に裁判を起こせば、おそらく有罪になるでしょうね」

「そこで君に、犯人捜しを頼みたいというわけだ」

「……窃盗事件なら、警察に頼めばよいのでは?」

「最近の警察は、窃盗位じゃ動いてくれないんだ。人手が足りないのか知らんが、これじゃ治安も悪くなる一方だよ。ったく……」


 店主は舌打ちをした。


「カメラの監視所にAIでもあれば、自動で不審者を感知できるんだが、そこまでの金は用意できなくて……」

「わたしは、どちらをやればいいのですか? 監視所で犯人を捜して皆さんに無線か何かで教えるか、あるいはわたしが犯人を捕まえに行くのか……」

「そりゃ、後者に決まってるだろ。商店街の連中は中高年ばかりだからな。荒事には向いてないから、よろしく! 前金は払うから」


 そうして店主は、懐から封筒を取り出すと、中身を出して見せた。

 一番価値の高いお札が十枚入っている。


「アンドロイドを取り戻してくれればこの紙幣を五枚、犯人をここに連れてくればさらに五枚を払う。それでどうだろうか」

「……本来は、犯人捜しは仕事ではないのですが、この仕事を紹介してくれた運送会社とは良くしていきたいので、参加させていただきます」

「本音か? いいぞ。むしろ、そういう事を素直に話してくれる奴の方が信頼できる。それじゃ、頼んだ。連絡するための端末を渡す」


 店主は、ズボンのポケットから、板の形をした端末を取り出して渡した。

 簡単に操作方法を説明した後、


「監視所は、俺の店の倉庫にあるんだ。俺の息子をそこに貼り付けておくから、指示に従って動いてくれ」

「分かりました。それで、本来の仕事である、ロボットの納品に関しては、どうしたらいいでしょうか」

「あ、そうだったな。元々は君に、ロボットの運搬をお願いしていたんだった。ロボットのうなじにカバーがあって、それを開けるとスイッチがあるから、それを起動してくれ。後は、こちらから遠隔操作できるから」


 ユキは店の外に出て、レッカーに一台ずつクレーンで地面に降ろしてもらうように言った。

 全部で五台あり、ユキはロボットにロープをくくりつけて、クレーンのフックを引っかけ、それをレッカーが降ろすという作業を繰り返した。

 そして、作業を全て完了させると、店主から、


「昨日からずっと、商店街のみんなで交代で防犯カメラを見ているんだが、今日このエリアでそれっぽい猫と少女を発見したんだ。まずはそこへ行ってもらえるか?」


 店主は、ユキに渡した端末を操作して、地図アプリを起動し、そのエリアを指さした。

 ユキは無言でうなづく。

 店主が片手を振って、さっさと行くように促してきたので、ユキはマオを連れてレッカーの中に戻った。


〈それで、犯人捜しをすることになったのか?〉

「ええ、しかも犯人は猫よ」

〈猫?〉

「猫がハッキングして、アンドロイドを盗み出したみたい」

〈今時の猫は、そんなにハイテクなのか……?〉

「いえ、そんな猫の話は、わたしも聞いたことないもの。そいつが特別なだけじゃないかしら」

〈万が一ということもあるから、そいつを捕まえに行くときは、マオは同行させない方がいいだろう。俺の中で待たせておいた方がいいと思う〉

「そうね。頼める?」

〈ああ、いつもとは違う仕事だから、油断しないようにな〉

「もちろんよ」


 レッカーとの会話を終えて、ユキは助手席でシートベルトをしめたマオに言う。


「危ないことをする猫だから、マオはレッカーの中でおとなしく待ってるのよ」

「えー。あたしも猫さん見たいなー」

「捕まえたら見せてあげるから」

「うーん……。レッカーに乗ってくなら、近くまでは行くんでしょ?」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、ここから応援してる」

「いい子ね」


 ユキはマオの頭をなで、そしてレッカーのアクセルをふかして出発した。


3へ続きます。

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