第百十五話:初日の出に願うこと
郊外にあるスーパーの大きな駐車場で夜を明かしていたマオは、建物の陰から突然差してきた朝日が飛び込んできて、レッカーの助手席で目を開けた。
「まぶしいねぇ」
車内は暖房で温かいが、外は氷点下で、夜の間に雪が降って、数センチ積もっていた。
まだチラチラと降っていて、静かに降りてくる氷の粒が朝日を反射して、キラキラと光っている。
「初日の出ね」
マオの声で目覚めたユキが、マオに近づいて、助手席のウインドー越しに太陽を見た。
「初日の出?」
「一年で最初に空に昇る太陽のことを、ある地域ではそう呼ぶの」
「へえ、何かすごいお日様なの?」
「特には。いつもと変わらない太陽よ」
「そうなの?」
すると、遅れて目を覚ましたレッカーが、
〈昔の人は、太陽を神様だと崇めて、地平線から登ってくるのを見て、一年の安寧を祈ったようだ。特別な意味もちゃんとあるぞ〉
ユキは、レッカーの言葉を分かりやすくマオに伝える。
「じゃあさ、何か願い事を言ったら、かなえてくれるかな?」
マオがしゃべる度に、助手席のウインドーが、彼女の温かい吐息で白くかすむ。
「レッカーの話によれば、そうかもしれないわね」
〈ああ、何か言ってみるといい〉
二人に促されたのでマオは、うーんうーんと顔にしわを寄せて考え始める。
「朝ご飯の準備をするわ」
ユキが外へ出て、荷台に登り、調理道具や食材を収納庫から取り出し、荷台を降りて、それらを広げ始める。
ガスを使ってお湯を沸かし始めた頃、
「お姉ちゃん!」
マオは、助手席のウインドーを電動でウイーンと全開にして、真っ白な息を吐きながら言った。
「お友達が、いっぱいできますように!」
マオのほっぺたは、冷たい空とは裏腹に真っ赤で温かい。
「願いごとの話?」
すでにカットされている野菜を、小さな鍋に入れて煮込んでいたユキは、手を止めてマオを見た。
「うん、いっぱい色んな所を旅して、好きになれる人にいっぱい会いたいの!」
両手を大きく広げて、マオは自分の気持ちを表現する。
〈いいじゃないか。立派な願いだ〉
レッカーがつぶやく。
「いいわね。じゃあ、今年はもっと遠くへ行ってみましょうか」
シチューの素を入れてかき混ぜながら、ユキは応えた。
大きな駐車場にポツンといる三人を、朝日が穏やかに照らす。
次話をお楽しみに。実は第二十話の続きだったりします。




