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第百十四話:地球を救った話②

「血が……青いですって……?」


 ユキは、細かく体を震わせておびえた表情をしている娘の患部を、のぞきこんだ。

 お腹に巻かれた白い包帯に、直径十センチほどの青い染みができている。


「これってもしかして、ロボットの潤滑剤かしら……。あなた、ロボットなの?」


 ユキが娘に尋ねる。

 すると娘は、ハッと何かを思いついたような表情に変わった。


「え、ええ……。実は私はロボットなんです……」


 娘は、顔中に脂汗をかいて、必死にユキの勘違いに乗っかろうとしている。

 そして三人の会話をレッカーの外で聞いていた男性も、


「じ、実は特別なロボットで、病院どころか、その辺の修理工場にも連れて行けなくて……。自分たちで治――修理するしかないんです」


 娘に話を合わせた。


「そう……なんですね。なんとなく、生き物の体液のような気がしたのだけど、気のせいなのですね」


 ユキは首をかしげたものの、とりあえずそれで納得することにした。

 父と娘は、激しく首を縦に振って、そのまま話を通そうとする。


〈で、その血……じゃなくて、潤滑剤が漏れているのは大丈夫なのか? その鉱物とやらを取りに行く前に、応急処置くらいした方がいいんじゃないか?〉


 ロボットかどうかという話を掘り下げるのはやめておこうと考えたレッカーは、ケガ――故障の話に戻した。

 レッカーの言葉を、ユキが父と娘に伝えると、


「ええ。ちょっとお時間をいただけますか」


 父がそう言い、自分の作業着の上着を脱いで、ユキに渡した。


「今から、娘の服を脱がして処置をします。裸を見られたくないと思うので、これを持って目隠ししてもらえませんか」

「……分かりました」


 ユキは言うとおり、彼の上着をカーテン代わりにして、自分とマオから見えないようにした。

 その後すぐ、カーテンの向こうから衣擦れの音がした。

 手術着を脱いで包帯を解いているだろうということは、音からユキにも推測できる。

 マオが向こうをのぞきこもうとしているので、「コラ!」と控えめな声で制止した。


「ちょっとだけ我慢しなさい」


 という父親の声と、


「うっ!」


 と痛みに耐える娘の声が聞こえてくる。

 小さな器具をいじっている音がするが、具体的にどんな物かは想像がつかない。


「あっ」


 ユキは気づいた。


「ねえ、レッカー」

〈……なんだ?〉

「もしかして、あなたには見えてる?」

〈なんのことだ〉

「二人の様子よ」

〈…………〉

「見えているのね」

〈見ているんじゃない。たまたま視界に入っているだけだ」

「……それを、見ているというのよ」

〈何が起きているのか、答えるつもりはない〉

「どうして?」

〈万が一のためだ〉

「危険なことが、何かありそうなの?」

〈いや、このまま知らないフリをしていれば、何も問題なさそうだ〉

「……あの人たちの車を直してあげて、『はいサヨナラ』の方が安全かも」

〈見たことのないデザインの車だな、これは。内部構造がだいぶ違う可能性がある。お前に直せないかもしれない〉

「……そうなの?」

〈とにかく、このままおとなしくしておけ。話を合わせるんだ。分かったな〉

「ええ……」


 二人は会話の内容が彼らにバレないように、コソコソと話していた。

 それから三十秒ほどして、


「もう大丈夫ですよ。応急処置は終わりました」


 父親の声を聞き、ユキは上着を返す。

 娘は、元通り服を着ていて、座席でグッタリしている。


「体調は大丈夫なのですか?」


 ユキが念のために尋ねる。


「……とりあえずしばらくは大丈夫です。あ、体調ではなく、不具合ですよ」


 父親が、緊張した声で訂正した。

 再び患部をのぞきこもうとするマオを、ユキは両肩を掴んで止める。


「血が青いなんて、まるで怪獣みたいだね」


 マオがお姉ちゃんにコソッと言った。

 しかし、ユキとマオの方をしっかり見ていた父親には、マオの言葉が聞こえていた。


「怪獣……? 怪獣とはなんでしょう。知らない単語ですね」


 父親が、不安そうに眉を下げる。


「あ、ええと、とにかく目的の洞窟に向かいましょう!」


 ユキはしどろもどろになりながら、ハンドルをギュッと握ってアクセルを強くふかした。

 星明かりで十分視界は確保されているが、念のためレッカーはライトを遠くまで照らす。

 そうして夜の荒野を、小石や砂を後ろに吹き飛ばしながら疾走した。

3へ続きます。

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