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第百十話:箱の中【リーナ・ジーン編】

「閉じ込められたね」

『閉じ込められたねぇ』

「……閉じ込め……られましたね……」


 リーナ、ジーン、アキの順に、エレベーターの中で感想を言った。

 リーナとジーンは楽観的な口調で、アキは顔を真っ青にして大きなため息をつきながら言った。


「寒いね」

『寒いの?』

「寒いですよ……」


 ここは商業施設や色んな企業のオフィスが入っている高層ビルの二十階で、真冬だというのに暖房が停まっているため、リーナとアキの吐く息が白くなってきた。


「ジーン、ドアに機関銃で穴を開けて脱出できない?」

『多分、今このエレベーターが停まっているのは、階と階の間だから、穴から出た所で、はるか下に真っ逆さまだね。まあ、ぼくはプロペラで飛べるからいいけど』

「箱に衝撃を与えたら、それだけで落ちていきませんか……? エレベーターに乗ったことがないので、全然分かりませんが」


 リーナはため息をつき、


「ねえ、このままここにいたら、あたしたちどれくらいで死ぬかな」

『そうだなぁ。どんどん温度が下がり続けているから、あと一時間くらいしたら二人とも気を失うかもね』

「でもさすがにそうなったら、ジーンだってあたしとアキを助けてくれるでしょ?」

『まあ、ぼく一人で脱出して、君たちが箱の中で息絶えている光景を想像したら、とっても後味が悪いし、助けてあげるさ』


 リーナとジーンの会話に割り込んで、アキがジーンの頭を両手でがっちりと掴んだ。


「だったら! 今! 助けてください!」


 アキは、歯をギリッと噛みしめ、とても怖い顔をしながらジーンの頭を激しく揺らす。


『わ、分かった! ごめんごめんって』


 目から人工知能に送られる映像が途切れ途切れになり、音声にノイズが混じりだしたため、ジーンは慌ててアキから離れる。


『本当はこんな方法は使いたくないんだけど、アキが怖いから仕方ないか……』

「……ジーンさん、今何か言いましたか?」

『ううん、何も言ってない! それにしてもアキ、いつもは清楚なお嬢様って感じなのに、今はスケバンみたいに怖いよ』


 彼の言葉を聞いて、リーナとアキは顔を見合わせて首をかしげた。


「スケバンって何? あたし聞いたことない。アキは知ってる?」

「いえ、私も知りません。ジーンさん、一体どこの国の言葉ですか?」


 やっと視覚と聴覚が正常に戻ったジーンは、仮面の下で何回か目をパチパチとして、


『あ、いや、人工知能が一時的に混乱して、データベースの片隅にあったよく分からない言語が出てきちゃった。たしか、不良少女のことだったかな』


「不良」

「私、不良ですか?」


 アキは、まっすぐジーンを見つめる。

 その視線が、睨んだように感じたジーンは、


『と、とりあえずここから出よう。二人とも、床に座ったまま丸まって』


 二人は言う通りにした。

 そして、箱の天井にプロペラで飛び上がったジーンを見上げる。


『目をつぶって息を止めて』


 ぎゅっと目をつぶった二人を確認した彼は、仮面を右手で引き上げて素顔をさらすと、大きく口を開けて、順番に二人を飲みこんだ。



「ジーンの口の中、すごかった……」

「ええ、すごかったですね……」


 エレベーターを脱出した三人は、ビルの外にいた。


『目を開けちゃったの? つぶっててって言ったのに』


 やれやれといった様子で、ジーンは両手を横に広げて肩をすくめるマネをした。

 肩はないので、あくまでマネだ。


「ジーンの中、超巨大な箱の中って感じだった! あたし、もう一回入ってみたい!」


 いきなり騒ぎ出したリーナの口を、彼は両手のアームでふさいだ。


『企業秘密だから、公共の場でそのことを言うのは禁止だよ?』


 ジーンは、声をトーンをいつもより少し低くして言った。


「あ、ええと……」


 アキも何かを言いたげな感じだったが、


『シー』


 彼が、右手のアームのうち一本だけを口の前で立てて、それ以上しゃべらないようにジェスチャーで訴える。


「い、言いません! 内緒にします……」


 アキは、縮こまっておとなしくなった。


『よろしいよろしい』


 仮面の下で、ジーンはニコニコしながら言った。

次話をお楽しみに。

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