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第百四話:誘拐された話【リーナ・ジーン編】②

 工場でのメンテナンスが終わり、外へ出たジーンは、辺りをキョロキョロと見回した。


『リーナ、どこに行ったんだろう』


 応接室か工場の中で待っているように言っておいたのに、そのどちらにもいなかった。


『確かに時間が思ったよりかかって待たせちゃったかもしれないなぁ。本当はぼくの目の届くところにいてほしいけど、一か所にとどまっているのが難しい子だしねぇ』


 ブツブツと独り言を言いながら、ジーンは工場周辺をキャタピラでゆっくり走って、どこかに隠れていないか探した。

 たまに、ジーンをびっくりさせようと物陰から突然飛び出してくることがあるからだ。


『いない!』


 ジーンは初めて、焦りを感じる声を発した。

 敷地を一周したのに、影も形も見当たらない。

 工場の裏手に、人間の大人の背丈ほどまで伸びて荒れ放題の茂みがあるが、試しにそこに潜りこんでみても、人間の捨てた生ゴミしかなかった。

 彼の目は、人間よりも何倍も優れているから、対象者を見逃すことはほとんどない。


『これが役に立つときが来たか……』


 ジーンは自分の口の中から、小型の端末を取り出した。

 万が一のためにと、リーナにも同じものを持たせている。

 通話やメールはできないが、位置情報の特定ができる。

 さっそく、端末のスイッチを入れた。

 最初に彼のいる工場周辺の地図が映し出された。


『えっ?』


 地図が急速にズームアウトしていき、どんどん高度が高くなっていく。

 やがて、リーナの位置を示す点は、車で二時間ほど離れたところにある山岳地帯に表示された。


『まさか壊れてるんじゃないよね?』


 ジーンは首をかしげる。

 この端末やその中に入っている位置情報サービスの機能は、決して安物ではない。

 リーナの命に関わるかもしれない、と考えて、色々な手段でお金を稼いで大金はたいて買ったものだった。

 ただ、現時点の情報だけで、示された場所に向かうのは早計だと思ったジーンは、工場の建物を注意深く観察した。

 すると、工場の正面にある、トラックの搬入口近くにある防犯カメラが、道路側を向いているのを見つけた。

 しかも、門の前には、少し年季は入っているが警備ロボットが立っている。


『地道に聞き込みするしかないか……』


 そうして彼は、キャタピラを高速回転させて、警備ロボットのすぐ足元まで来た。

 人間の大人ほどの背丈のある警備ロボットは、突然現れたサッカーボールほどの大きさのロボットに、一瞬警戒するそぶりを見せたが、先ほど工場の中から出た者だと認識して、警戒を解いた。


〈何かございましたか〉

『あのさ、十歳くらいの女の子見なかった? 茶色いリュック背負ってて、茶色がかった髪をポニーテールに結ってる子なんだけど』

〈……はい、一時間二十分ほど前に、ワゴン車に乗せられているところを確認しています〉

『乗せられていた……? 女の子を乗せたその人物って、どんな見た目?』

〈目出し帽を被った、おそらく男性二人組です〉

『ふむふむ。それでどの方角に行った?』

〈あちらです〉


 警備ロボットが指さしたのは、さっき位置情報サービスで表示された方向と一致する。


『ねえ、工場の防犯カメラを見せてもらう事ってできる? 相棒が誘拐されたかもしれないんだ』

〈今、事務所に確認します。……はい、大丈夫です。門を開けますのでお待ちください〉

『ありがとう。ところでさ、君の見える所で誘拐事件が起きていたんだから、止めに入ってくれても良かったんじゃない?』

〈私は警備ロボットです。ここを離れるわけにはいきません〉

『せめてどこかに通報してくれればさぁ……』

〈敷地外での事案は、私の業務範囲外です〉



 使えないロボットだなぁ、と愚痴をこぼしながら、ジーンは工場にまた入って、防犯カメラを確認させてもらった。

 確かに、嫌がるリーナを目出し帽の大人が車へ押し込んでいる。


〈これから、車の向かった先にある防犯カメラを見せてもらう予定なのですか?〉


 事務ロボットが尋ねる。


『そうだね』


 ジーンは冷静な口調で答える。


〈それでしたら、警察に相談してみては。彼らが街中の防犯カメラの設置場所に問い合わせれば、警察署で一度に映像を確認できるかと思います〉


『えっ、この街ってそんな連携プレーができるの?』

〈昔、人間たちによって治安が悪かった時期があって、警察の権限で映像を確認できる条例がつくられたのですよ〉

『ほう、いいこと聞いた。じゃあ早速行ってみる!』


 ジーンは事務ロボットにお礼を言うと、工場を出て警察署に向かった。



3へ続きます。

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