第百一話:休憩する話
〈早速、太陽光パネルが役に立ってるな〉
レッカーが皮肉交じりに言った。
ここは、岩と砂利しかない荒野。
どこまでも、真っ平らな大地が広がっている。
人やロボットの姿は他になく、建物の痕跡などの文明を感じさせるものも、一切見当たらない。
空を飛ぶ鳥も、地面を歩く動物も姿もない。
「あと二時間ってところかしらね」
運転席から降りたユキは、レッカーの天井に斜めに取り付けられた太陽光パネルを見上げる。
直射日光が照りつけているそのパネルは、キラキラと光っていて、効率よく発電が進んでいた。
「ねえねえ、なんでここに停まったまま充電してるの? 走りながらじゃダメなの?」
地面を指でほじくりかえしていたマオが、顔を上げて隣に立つユキに言う。
「充電しながら走ると、バッテリーに負荷がかかって、壊れやすくなるのよ」
ユキが説明したものの、
「ふうん?」
マオは首をかしげていて、あまり理解していないようだった。
〈充電スタンドのある街が最近減ってきたから、俺のバッテリーを応急的に充電できるようにと、この前これを買ったわけだが、まあ、しっかり使えるものを買わされていて良かったよ〉
「まったくね。スタンドの機材の方がもっと効率がいいから、本当はそっちで済ませたいけれど。不良品でないか店員にしつこいくらい確認してから購入したから、心配はしてなかったわ。これで安心したでしょ?」
〈そっちの面では安心だが……。それにしても、近道だと思って向かった山道が、崖崩れで通れなくて、仕方なく遠回りしたら、こんな何もない荒野に来てしまうなんてな。他に進めそうな道はなかったのか?〉
「なかったわね。地図でも確認したし。しっかり整備された有料の道路ならあったわ。確かに街から街へ行くのには安全だけど、通行量が結構高かったのよね。その道路を通る選択肢は、初めからなかったもの」
〈質のいい道路を維持するのにもお金がかかるから、その分を回収するのは当然だが、俺たちみたいな貧乏人には辛い〉
「わたしは、こうして大自然を感じられる場所で休憩出来て、楽しいの。差し迫った仕事は特にないし、のんびりした旅も悪くないと思う」
〈お前が満足なら、俺が言うことはなにもないよ〉
レッカーとの会話がひと段落したところで、ユキは自分の足元でマオが砂遊び用の小さいシャベルで穴を掘っていることに気がついた。
「マオ、何してるの?」
「お姉ちゃんを穴に落とそうと思って」
ユキが少し移動すると、
「あー! ダメだよお姉ちゃん、ここに立ってなくちゃ。落とせないでしょ」
マオは、眉間にしわを寄せて、ブーブーと文句を言う。
「そんなやり方じゃ、いつまでも終わらないわよ」
するとユキは、レッカーの荷台に登って、工事現場で使う金属製のスコップを持ってきて、マオと一緒に穴を掘り始めた。
〈何してるんだ?〉
レッカーが尋ねる。
「ついでに、生ごみを捨てる穴をつくろうと思って」
そうつぶやくと、ユキはどんどん掘り進めて、深さ一メートルくらいの細長い穴をつくった。
そして、生ごみを捨てた。
マオも、一緒に穴を掘れて満足している様子だ。
一息ついたところで、
〈ここにいると、別の星にでも来てしまったかのようだな〉
レッカーの感想に、ユキは少し考えて、
「ああ、生き物がまったくいないってこと? そうね。もし人類全員が絶滅して数百年経ったとしたら、こんな風景になるかしら」
〈いつかは、こうなるかもしれない〉
すると、土いじりに飽きたマオが、ガバッと立ち上がり、空を指さした。
「鳥だよ!」
茶色くて大きい鳥が一羽、気流に乗ってのんびりと飛んでいる。
「あら、生き物いたわね」
〈まだこの地にも生態系が残っているってことか〉
大きな鳥は、少し二人と一台を見ると、飛び去って行った。
「どこ行くんだろうね」
マオがつぶやく。
「行けるところまで」
ユキが答える。
それから、飽きるまでおしゃべりしたり遊んだりしていたが、やがて充電が完了した。
二人はレッカーに乗り込む。
〈行くぞ〉
「行きましょうか」
「行こう行こう!」
レッカーはゆっくりと走り出した。
休憩を終えて、二人と一台は、また目的地に向けて出発した。
話数が三桁の大台に乗ったので、レッカーに新装備が増えました。次話をお楽しみに。




