『夢を見せてくれる魔法使い』
昔々、まだロボットがいなかった時のお話です。
ある森の中に小さな村がありました。
とても穏やかなところで、小鳥の声が聞こえ、村の中には小さな川が流れ、とても自然豊かな村です。
そんな村の外れに、丸太を組み合わせてつくられた小さな家がありました。
そこには、お父さんお母さんと男の子が住んでいるのですが、お父さんは離れた所に出稼ぎに行っていて、なかなか帰ってきません。
お母さんは、家事や村の他の人の畑を手伝いに行っていて忙しく、男の子に構う時間はあまりないです。
男の子は車いすに乗っていて、一階の自分の部屋の、開けられている窓から外を見ていました。
彼はため息をつきました。少し離れたところで、村の子どもたちが走り回って遊んでいます。
自分も混ざりたい、といつも思っていましたが、車いすの子とは遊びにくい、とその子たちに言われたことがあり、それから彼らに声をかけられずにいます。
「こんにちは!」
窓の下からいきなり、魔女の大きなとんがり帽子をかぶった女の子が顔だけ出して、元気よくあいさつしました。
「うわぁ!」
男の子はびっくりしてのけ反り、後ろに車いすごとひっくり返りそうになります。
でも、前方に両腕を伸ばしてバランスをとると、何とか倒れずに済みました。
「だ、大丈夫……?」
女の子の身長では家の中までは見えないので、何回もジャンプしてのぞきこみます。
「う、うん大丈夫。三日前も言ったじゃないか、急に顔を見せたらびっくりするって」
男の子は、窓枠に肘をのせて、外に立つ女の子を見ました。
女の子は、そんな彼を見上げて言います。
「だって、しょんぼりした顔してたから、元気づけようと思って」
「でも確かに、君の笑顔と明るい声で、元気出たよ。ありがとう」
男の子は優しく笑みを浮かべます。
「う、うん……」
顔が熱くなってきたのを隠したくて、女の子はうつむいて帽子を深くかぶりました。
「それより、今日も見せてくれるの?」
男の子が尋ねると、
「見せてあげる」
一旦せき払いして落ち着いた女の子は、ニコッと笑いました。
走っていって玄関から入り、彼の部屋のドアをそうっと開け、中の様子をうかがいます。
男の子はこちらを向いていて、手招きして部屋に入ってくるように促しています。
「いらっしゃい」
彼は、唯一のお友達を誘えてうれしくて、表情が柔らかくなっています。
一方、ゆっくりとドアを開けて入った女の子は、何度も入っているのに、いつもここで男の子が過ごしたり寝たりしているのだと考えて、緊張してしまいます。
男の子はベッドまで移動すると、車いすからその上に乗り、ベッドの端に腰かけました。
そして、ベッドに仰向けに寝転びました。
女の子は緊張した顔で歩いていってベッドに近づき、大きな帽子をその近くにある外套かけにかけます。
上半身に羽織っている、帽子と同じ紫色のローブも脱ぎ、それにかけて、右手を自分の胸にあてます。
いつもよりも早い心臓の鼓動を感じながら、女の子は彼の右横に寝ました。
枕は横に長いので、男の子とピッタリと体をくっつけなくても頭をのせられるので、女の子はホッとします。
これ以上彼と近づくと、胸から心臓が飛び出してきそうなのです。
「顔赤いけど大丈夫? どうしたの?」
男の子が顔を向けてきました。
「な、何でもない……よ」
か細い声しか出なくなっていることに自分でびっくりしましたが、女の子は勇気を出して左手を彼に差し出します。
男の子はその手を握りました。
彼は、彼女の手の平が少し汗ばんでいて温かいことに気がつきましたが、外が秋晴れで暖かいからかもと思い、訊くことはしませんでした。
「それじゃ、夢を見せるね」
女の子は言いました。
「うん、楽しい夢を頼むよ」
男の子は静かに目を閉じます。
女の子は、ボソボソと呪文を唱え始めます。
頭の中で、一緒に見たい夢を思い描いていきます。
そして、魔法が発動しました。
二人はゆっくりと、眠りに落ちていきました。
そう、彼女は魔法使い。
夢を見させてくれる魔法が得意なのです。
4へ続きます。




