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第百話:少女は何を拾う③

 ゴミ山のある林を出発してから数時間、レッカーは山道を慎重に走った。

 ガードレールなどない危険な道もいくつかあり、坂を上ったり下りたりを繰り返し、ようやく文字通り峠を越えたころには、西の空がわずかにオレンジ色に光っているだけとなっていて、ほとんど暗くなっていた。

 峠は越えても、まだ標高が高いため、日が沈んだ夜は空気が冷え切っている。

 作業着から普段着に着替えたマオに、今日は車内で食事をすることを提案したユキだが、


「ずっと中にいて疲れた! 外で食べたい!」


 これを着れば大丈夫だもん、とマオは車内にかけてある冬用の厚い生地のジャンパーを手に取って言った。


「分かったわ。じゃあ、スープでもつくるわね」


 そう言ってユキは、一旦外に出て荷台に上がり、席に一番近いところに固定されている冷蔵庫を開け、水が入った容器と食材を取り出す。

 次に、隣に置いてある大きな道具箱を開け、調理に必要な道具を出して、それらを持って荷台から降りた。

 ユキは、人間がよくキャンプに行くときに使う小さいガスバーナーの上に、金属製の一人用の小さな鍋を置き、その中にあらかじめ切ってある野菜や肉と水とスープの素を混ぜ、火を点けた。

 それを煮ている間に、彼女はまた荷台に上がって常温の保存庫を開け、バターを練りこんでつくられたクロワッサンの入った袋を持ち出す。

 写真が付いた大きな袋の中には、個包装になっている銀色の袋がいくつも入っていて、それを二つ取って荷台を降り、マオの前に置いた。


「パン、食べないの?」


 それに手を付けずに、スープが出来上がるのをじっと見ているマオに尋ねる。


「パンはね、スープに付けて食べるとおいしいの。だからまだ食べない」


 自慢するようにマオは言った。


〈グルメだな〉


 レッカーが優しい口調で言う。

 ユキは、ゴムの取っ手が付いた金属製の器具でスープをゆっくりと混ぜて、食材全体に火が通るようにし、やがて完成した。

 木製の深いお皿にスープを注ぎ、木製のスプーンも一緒にマオの前に置いた。

 すぐさま、マオはスプーンを手に取り、お皿に突っ込ませて、ビチャチャチャとスプーンからお皿にスープをこぼしながら、野菜を口に運ぶ。

 冷え切った寒空の下、具材からは湯気が立ち上っていて、彼女はハフハフと熱そうにしている。

 次に、袋を勢いよくバリっと破いてクロワッサンを出して、一口サイズにちぎってスープに浸し、口に入れた。


「おいしい?」


 ユキが訊く。

 マオは声を出さず、小さくうなづいた。

 すると、グリーが口を開いた。


「人間がおいしそうに食事をしているのを見ると、ロボットの私も気分が高まりますね。ささやかながら音楽を演奏させていただきたいのですが、よろしいですか?」

「音楽?」


 ユキがちょっと警戒レベルを上げる。


「ええ、私の体には電子ピアノが内蔵されていまして、これを弾きながら普段は物語をお話しているのです。よろしければ」

「そういうの、確か吟遊詩人っていうのかしら。分かったわ。じゃあ、カフェで流れているような静かな音楽を」

「かしこまりました。では……」


 グリーは、胴体はロープで固定されているものの、上半身は自由に動かせる。

 カバーを開いて電子ピアノを見せると、両手でゆっくりと弾き始めた。

 手で持ち運べるランプが、地面に敷かれたシートの上で光るだけの、すっかり暗くなった森の中で、会話の邪魔にならない程度の音量の音楽が流れ始める。

 マオはスプーンの持つ手を止め、ロボットの方を見た。

 ユキも、指を動かす彼を見つめる。

 レッカーは、自分の荷台から音楽が流れ始めたことに違和感を覚えつつも、静かにしていた。

 やがて、マオが食事を終えると、ユキが口を開いた。


「グリーは確か、物語を話すのよね。良かったらマオに何か聞かせてもらえる? 報酬は払うから」


 すると彼は演奏を止め、


「分かりました。それでは、同行を許可してもらっている私からのお礼も含めて、とっておきのお話をお聞かせしましょう」

「ありがとう。体のロープは外した方がいい?」

「いえ、語りには口と腕が動けば大丈夫なので、このままでいいですよ」

「そう。じゃあそのままでお願い」

「かしこまりました。では始めます」


 そう言ってグリーは、川のせせらぎや小鳥の声の効果音を流し、静かな音楽を演奏し始めた。


「これは、ある魔法使いの女の子のお話です――」

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