第九十九話:私たちは何を拾う
「お姉ちゃん、この辺ずっとがれきの山ばかりだけど、ここはどこ?」
「ここはね、わたしとレッカーが初めて出会って、長い間一緒に過ごしていた街なの」
「どこ? どこで会ったの? この辺?」
「本当に最初に出会ったのは、ここからまだ北の方ね」
「へえー。ボロボロになった大きなビルがたくさんあるね。倒れないの?」
「倒れるわよ。わたしたちがここで仕事していた時も、いくつもビルが倒壊するのを見たもの」
「そうなんだ。あっ、あっちに大きなクレーン車がいるよ! 黄色いやつ! レッカーよりもすごく大きい!」
「たぶん、大きながれきを取り除いて、その下にある資材を回収するつもりなのかもしれないわ」
〈ああ、あの太くて大きなクレーンのアーム、憧れるなぁ。安定している大きな車体も最高だ。俺より外装がきれいじゃないか〉
「レッカーのその言葉、まるで鍛えられた筋肉に魅力を感じる人間の男みたいね」
〈お、そうかもしれないな。俺も転生したらああいう大きなクレーン車になりたいものだ〉
「レッカーがあんなに巨大になったら、もう一緒に旅はできなくなるわ」
〈うーむ、それも困るなぁ。むむむ、やはり今のままがいいのか……ううむ……〉
「お姉ちゃん、レッカー何かうなってる? 何言ってるかは分からないけど」
「そうね。あの大きなクレーンに憧れるんだって」
「じゃあ、クレーンだけ取り換えればいいじゃん」
「それをしたら、レッカーが動けなくなるわね」
〈ひっくり返るだろうな〉
「ほらマオ、工場が見えてきたわよ。工場長に会えるかしらね」
「どんな人?」
「人じゃなくてロボットよ。わたしを拾ってくれた恩人なの」
「おお! ユキじゃないか! すごく久しぶりだなぁ。壊れずにやってたか?」
「お久しぶりです、工場長。たまたま近くまで来たので、ご挨拶に来ました。元気にやってます」
「そうか! 良かった良かった。向こうに停車してるレッカーも、ちゃんと動いているようだな」
「ええ、最近不調が増えてきましたけど、修理すれば全然問題ありません」
「二人とも変わりなくて何よりだ。それよりも、この子は人間か?」
「はい、マオと言います。この街を出発する前に拾ったんです」
「犬や猫じゃないんだぞ? 訳ありなのだろうが、ユキはきちんと親代わりができるのか?」
「親というより、姉代わりですね。読み書きやかんたんな計算は、旅の道中に教えています」
「なるほど、マオちゃんも顔色はいいし、ちゃんと食事はできているみたいだな。……初めまして。ここの工場長だ。マオちゃんはお姉ちゃんのことが好きかい?」
「……うん! 好きだよ」
「そうかそうか。良かった。安心したよ。これからも、お姉ちゃんの言う事をちゃんと聞くんだよ」
「うん」
「もう行くのか? しばらくここを拠点に仕事をしてもいいんじゃないか?」
「それはありがたいんですけど、実はもう次の仕事が決まっていて、そちらに向かわなくちゃいけないんです」
「ほう、仕事面も順調ということだな。いやー、君とレッカーを送り出した時は不安だったけど、きちんと生計を立てているのは立派なことだ」
「何か困ったことがあれば、その時は工場長を頼りたいと思います」
「ああ、私も君たちみたいな優秀な人材は大歓迎だ」
「これからも、旅をしながら色んな人やロボットに出会って、色んな景色を見たいと思います」
「そうだな。ガラクタ拾いをしていて、思わぬものを拾うかもしれないしな。それも出会いだ」
「ええ、それも旅の楽しみの一つです」
「レッカー、ユキとマオちゃんを頼んだぞ」
〈ああ。工場長も達者で〉
「三人で楽しんでこい!」
次話をお楽しみに。




