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第九十八話:緑の理髪店

 とある山の中腹に、草原が広がっていました。

 そこは盆地になっていて、あちこちがデコボコし、八割を占める緑の中に赤や黄色の小さな花がちらほらと咲いています。

 そんな草原を高い所から見渡せる場所に、ユキたちがいました。

 彼女たちは、すぐ近くにある森に背を向けていて、広い広い大地を見ています。


「こんなところで髪を切るなんて、不思議」


 マオはしみじみとつぶやきました。

 彼女は折りたたみ式のイスに座っていて、全身に布を被っています。

 そして、ユキによって髪を切られていました。

 マオの目の前には、人工物は一切なく、大自然の雄大な景色が彼女を圧倒しています。


「今日はとてもいい天気だから、日光浴には最適ね」


 気温は二十度ほどで、ちょうどいい暖かい日差しが降り注いでいます。

 風は穏やかに吹いていて、草木の匂いを彼女たちに運んでいました。 

 ユキは散髪専用のハサミを器用に使いながら、マオの背中まで伸びる髪の先を切りそろえます。

 髪の長さはほとんど変わっていませんが、ボサボサになっていたのが整えられていきます。

 草花や木の葉と一緒に、彼女の細かい髪の毛が、風にのって吹かれていく光景は、


〈ああ、落ち着くなぁ〉


 レッカーが、隠居した老人のような口ぶりでつぶやくほどでした。

 やがて、


「終わったわよ」


 と、ユキはマオの体に巻いてある布を取りながら言いました。


「うん」


 おとなしくしていたマオは、縮まっていたバネが伸びるように立ち上がり、両腕を上げて思いっきり体を伸ばします。

 その後マオは、地面をキョロキョロと探し始めました。


「何をしてるの?」


 ユキが尋ねても返事をしません。

 そして、


「あった!」


 マオは地面にしゃがみこみ、一つの小さい赤い花を茎ごと取り、


「お代!」


 とユキの手に握らせました。


「お代?」


 ユキが少し困惑していると、


「ずっと前にお店で切った時には、お金払ったでしょ。あたしはお金持ってないから、お花あげる」


 マオはニコニコと笑います。

 クスッと笑ったユキは、彼女の頭を優しくなでました。

 緑の香りが、二人と一台の間を抜けていきました。

次話をお楽しみに。

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