第九十二話:ドッペルゲンガー
子ども向けのモンスター図鑑を読んでいたマオは、あるページで手を止めました。
「自分と同じ人がいるんだって」
マオは、運転席で紙の地図を見ているユキに言います。
「ドッペルゲンガー? 『見たら死ぬ』って書かれてるわね」
ユキは顔を上げて、マオの持っている図鑑をのぞき込みました。
「死ぬの? せっかく会えたのに?」
「マオは、ドッペルゲンガーと会ったら何かやりたいことでもあるの?」
「あたしと同じなんでしょ? だったら、『何が好きなの』とか『昨日は何して遊んだの』とか聞きたい。お姉ちゃんは?」
「わたし? ロボットにドッペルゲンガーなんているかしら」
「もしいたら?」
「そうね……。もう一人のわたしと会えたら、まずそいつを機能停止させるわ」
「きのうていし」
「そして、分解して使えそうな部品があったら、わたしの古くなった部品と取り替えたいわね」
「かわいそう」
「そう? どうせ相手は本物のわたしじゃないもの。でも造りが一緒なら、部品だけでももらっておきたいでしょ」
ドッペルゲンガーの話に飽きたマオは、次のページのドラキュラを読み始めました。
「ちなみにレッカーは、もう一人の自分と会ったらどうする? 相手はあなたをバラバラに分解しようとしているわ」
〈……使えそうな部品を、というのは賛成だが、その前にそいつへ言っておきたいことがある〉
「何?」
〈『同じ車種と出会えて良かった』と〉
次話をお楽しみに。




