第七十一話:ロボットのお墓②
ある日ユキは、公共の仕事案内所でその仕事を見つけた。
「あら……」
彼女は思わずパソコンの画面に顔を近づける。
時給がかなりいい。ただ、仕事内容に違和感があった。
「ロボットのお墓をつくる仕事……?」
ユキは首をかしげる。
お墓というのは、生きていた人間や動物が死んだときに、家族や友人らによって入れられるものだ。たくさん旅をしてきて、お墓が並ぶ光景は色々見てきた。
一方、ロボットは生物ではない。動けなくなったら直せばいいし、修復不可能なら廃棄処分される。
そのような存在に、お墓をつくってあげるというのはよく分からなかった。
ユキは、その画面をスクロールさせ、この求人情報の主のコメントを読んだ。それはとても短く、
『ロボットにも人生があります。その最期を手伝いませんか』
ロボットにも人生……。ユキはつぶやいた。
愛玩用ロボットが壊れて廃棄処分以外の道がないとなったときに、それを葬る人間がいるという話は、たまにどこかで聞いたことがあった。もしかしたら、その手伝いなのかもしれない。
まあ、仕事内容は理解した。そういう行為は理解できないが、お金がもらえるなら仕事として割り切ろう。
試しに、彼女はこの求人を出した人物をネットで検索してみた。すると、
「えっ……」
かつて天然資源の発掘で財を成した有名なアンドロイドらしい。今は引退し、山奥で暮らしているという。
給料の出どころについては問題なさそうだ。たまに、犯罪まがいのことで儲けている人物から仕事を依頼されたことがあったが、その時はすぐに仕事を放棄して逃げた。さすがに犯罪に手を貸してまでお金はほしくない。
ユキは、その仕事を受けることにした。
発見した二体のロボットをお墓に入れた後、ジュンはユキとマオをお墓近くの自分の家に招いた。
そこは平屋のプレハブ小屋で、一つの部屋にキッチンと寝床とリビングがある。
あちこち木片がはがれ落ちて、座るとギーギー音を立てるイスに座ると、ユキとマオは顔を見合わせた。
向かい合わせに置かれているソファは、穴がいくつも開いていてボロボロで、キッチンもだいぶ色が剥げてしまっている。壁側にあるベッドは、二人寝転がれば抜け落ちてしまいそうなほどだ。
金持ちだと思っていたのに、その人が住む家とはとても感じられない。むしろ、今にも野垂れ死にそうな人間の住まいといった雰囲気だ。
「どうぞ」
と、マオの前に出されたのは、ガラスのコップに入ったリンゴジュースだった。
「人間がここに訪れることを想定していたんですね」
ユキがそう尋ねると、
「たまに、道に迷った人間が通るんだ。このあたりの地形ってかなり入り組んでるから、ちゃんとした装備を持っていない者はすぐに遭難する。あそこにロボットを捨てていく業者以外はね」
ジュンは最後の一言だけ、語気を強くして言った。
「…………」
ユキは何も言えなかった。
確かに、ロボットを人間に雑に捨てられている現実は、同じロボットとして許せない。
しかし、彼女はそうやって放棄された部品や資材を拾って売る仕事をしているため、お墓をつくって弔いたいと胸を張って言える立場ではなかった。
「ねえねえ、おじさん」
マオがジュンに尋ねる。「どうしてお墓なんてつくってるの?」
少しの間沈黙していたジュンだったが、緊張した面持ちで答えた。
「昔の戦争で、ロボットを直す仕事をしていたんだ。でも、俺はある理由で自分の未熟さを感じた。だから、戦争が終わってから、俺はロボットのお墓をつくってる」
「誰からも報酬をもらうことなく?」
今度はユキが尋ねる。
「ああ。戦後は本業でかなり儲けてたから、空いた時間に活動していても問題なかった」
「しかし、こう言っては失礼かと思いますけど、この家は、儲けている方が住んでいる家ではないような……」
「当時経営していた会社の幹部に、活動のことがばれてしまって。彼らには、お墓をつくることの大切さが分かってもらえなかったよ。経営者として十分貢献していなかったとして解雇されてしまった。それからは、貯金を切り崩して今に至るというわけさ」
ハハハ、と彼は病床の老人のように苦笑した。
「お金がないというのに、なぜ高い時給でわたしたちを雇ったのですか」
「時間がないからだよ」
「時間?」
彼は、それ以上言葉を続けることはなかった。
それからは、ユキが主にマオのことについて話した。さすがにくず拾いの話はしなかった。ジュンは興味深げに聞いてくれた。
役所の車が家の横を通って山を登って行ったのは、ユキたちが雑談を始めて三十分後のことであった。
3へ続きます。




