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第六十四話:都会のクマさんと少女⑥


「警察につきだすつもりじゃないでしょうね……」


 住処のある廃ビルの階段を降りながらエリーは、先導するユキに疑いの視線を向ける。


「警察に犯人を引き渡すと、とても面倒な手続きがあるから、それをするつもりはないわ」


 ユキは歩きながら話す。


「わたしには、あなたの生き方を変える権利はないし、そうするつもりもない。ただ、妹を助けてくれたロボットの所有者に、もう一つの生き方を教えてあげるだけ。どっちがいいかは、エリーが選んで」


 そうして、三人はそのビルを出た。地面は薄暗く、人間には歩きづらい場所だ。


 ユキはその場に立ち止まって辺りを見回していたが、少しして路地の隅を指さす。そしてエリーに言う。


「ほら、あれ拾って」

「あれって?」

「フライパンのふたが落ちているでしょ。おそらく金属製」

「なんで拾うの?」

「いいから」


 不満げな顔で、エリーは重い足取りで歩き、ふたを手に取った。


「はい、これどうするの」

「そのまま持っていて」

「は? なんで」

「いいから」


 ユキが路地の奥へと歩きだしてしまったので、マオは不安そうに後を追い、手をつなぐ。


 エリーはきょとんとした顔をべアックスに向けていたが、


「えっ、何、ついていけって?」


 彼はユキの方を腕で示したため、


「まったく……」


 エリーはため息をつき、走ってユキに追いつく。



 それからエリーは、ユキの言われるがままに路地の中を歩き回り、様々なものを拾った。そして、元いた廃ビルの前まで戻った。


「こんなもの、一体何にするの……」


 エリーがあきれるくらい、それらはボロボロで、自分で使おうとはとても思えない物ばかりだった。しかも、ユキとマオとエリーとべアックスがそれぞれ胸で抱えてくるくらいたくさんある。


「売るのよ」


 手に付いた汚れを自分の作業服で拭いながら、ユキは言った。


「売る!?」


 思わず、エリーの声が裏返った。


「ええ、ガラクタばかりだけど、これでも少しはお金になる。今回はいっぱいあるからわたしたちが買取店まで運んであげるけど、次からは自分でやるのよ」

「お金儲けができるかんたんなことって、こういうこと……?」


 エリーは、あきれてものが言えない、という表情をする。


「これなら、誰にも迷惑をかけないで、いつもの食事が買えるわよ。わたしたちも、これと似たようなことをしてきた。ね、マオ」

「うん、ゴミの山をあさって、使えるものがないか探したよ」


 マオは、宝探しをする子どものように目をキラキラさせながら、エリーにそう言った。


「……もっと楽に稼げる方法はないのかしら」


 ぼそっとエリーがつぶやくと、


「ないわ」


 低い声で、はっきりとユキは答える。

 

「そう……」


 もう聞くことはない、といった様子で、エリーはそっぽを向いた。


 それを察してユキは、


「さて、これ全部運んで売りに行くから、もう一回運ぶわよ。それが終わったら、わたしたちはお別れ。それでいいかしら」


 エリーは、無言でうなづいた。



 それから二週間後、ユキたちはまだ同じ街にいた。


 マオの寝静まった夜、彼女はレッカーに、職場で観た、地元の出来事を伝えるテレビ番組のことを話した。


「先々週に会ったエリーっていう子、警察に捕まったらしいわ。実名で報道されてた」

〈……そうか。まだぬいぐるみに盗ませていたのか?〉

「ええ、べアックスは警察に捕まった後、とても協力的で、エリーのところまで案内したそうよ。彼女も、容疑を認めているって」

〈それで、あの子はいったいどういう子なんだ?〉

「お金持ちの家に生まれたけれど、一家離散して、元の家にいたころから仲良しだったぬいぐるみとずっと一緒、らしいわ」

〈まあ何にせよ、これまで何度も盗みを働いているらしいって、ユキがこの前話したろ? 俺としては、ここらでキチンと罪を償うべきだって思うよ。これから彼女が行くところは飯が出るんだから、今の場所よりはマシだ〉

「結局、あの子に教えたことはムダになっちゃったのね……」

〈いや、そんなことはない。自分の犯した罪の重さを知った後、社会に出たとき、きっとお前の教えたことの意義が分かっているはずだ〉

「そうだといいけど」

〈今回俺たちも学んだな。マオからは絶対に目を離さない、ということを〉

「確かにね……。それは一番肝に銘じておく」

〈……そろそろ寝るか〉

「そうね、おやすみ」

〈ああ、おやすみ〉

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