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第六十四話:都会のクマさんと少女②

 大きな街の大きな食料品店の駐車場で、レッカーがエンジンを切って休んでいた。整備されていない峠道を一晩中走り続けて、エンジンがオーバーヒートしてしまいそうだった。彼は半分寝ていて、もう半分は周囲にぼんやりと意識を巡らせて、誰かが近づいてこないか見張っている。


 ユキとマオが店に入ってから十分経った。今頃、マオはあれ食べたいこれも食べたい、とお姉ちゃんにねだっているのだろう。


 薄い財布の中身を見ながら、ユキはきっとそのわがままをどうにか鎮めようと奮闘しているに違いない。いつもの出来事だ。


 今日はほとんどの商品が安いらしく、店の入り口にある電光掲示板には「特売日!」という文字が大きく表示されている。


 大きな街に建っているだけあって、この広い駐車場は四分の三くらいが車で埋まっていた。これだけ食料を必要とする人間がまだいるのだな、とレッカーは感心した。


 さらに五分くらい過ぎたとき、お店の入り口が開き、人よりもかなり小さいものが出てきた。


 それはクマのぬいぐるみで、顔は子どもに可愛がられるようデフォルメされている。胸には、何か缶詰を二つ抱えている。よく見てみると、サバだった。


 今時は、ああいうロボットも買い物をするのだな、と年寄りみたいなことを思ったレッカーだったが、ぬいぐるみを追っていた寝ぼけ眼が、次の瞬間、一気に目覚めた。


 ぬいぐるみのすぐ後ろを、マオがついてきている。まるで探偵のように、物陰に隠れてそれが重そうに缶詰を運ぶ姿を観察していた。


 何をやっているのだろう。いや、あの子なら、自分よりも小さくてもふもふな存在がお店を歩いているのが、とても不思議でしょうがないはずだ。だったら、後をつけたくなる。


 マオが外へ出たというのに、ユキは何をしている。まだ姿はない。見失ったか? 


 ただ、レッカーは次なにをすべきかは明白だった。あの幼児を追いかけなくてはならない。彼女の保護者として、勝手にどこかへ行ってしまうのを止めるのだ。


 レッカーがいるのは、お店の入り口から離れた、駐車場の隅っこで、それは入り口に近いところは普通乗用車がぎゅうぎゅう詰めに並んでいて、そんな場所に停めるのは面倒だ、と彼が主張した。


 マオを追うことになるとは思っていなかったから、早く行かないと行方が分からなくなってしまう。彼は急いでエンジンをかけて発車したのだが、


「プップー!」


 焦っていて、左から車が来ているのに気づかなかった。あわててブレーキをかけたからぶつかってはいないが、その後、目を凝らしてみても、背の低いマオは、駐車されている他の車の影に入ったのか、完全に見失ってしまった。


 何とか、彼女が歩いていったほうの駐車場入り口まで来て、左右を見回し、左の歩道をやはり物陰に隠れながら進んでいるマオを遠くに見つけ、彼はその方向にハンドルを切った。


 道路は渋滞していて、なかなかマオまで追いつかない。彼女の姿は確認できるものの、早く行かないと、事故や事件に巻き込まれるかもしれない。


 そういえばユキは何をしているんだ、とレッカーは、スーパーの方を少しだけ見る。すると、ちょうどその入り口からあわてて出てきたところだった。まだ会計はしていなかったようで、彼女は手ぶらだった。


 自分の居場所を知らせるため、レッカーはクラクションを一回鳴らす。


「レッカー!」


 ユキは、血の気が引いた人間のような顔をしていた。


〈マオは、この先の歩道を行ったぞ。……あっ、おい見ろ、〇〇屋、と書かれた看板のお店の横の路地に入っていった〉


 レッカーはそうまくしたてる。


「分かったわ」


 そう言うと、ユキはまるで短距離選手並みのスピードで走っていった。途中、何度も通行人とぶつかりそうになるが、何とか避ける。


 そうしてそのお店横の路地に入ると、


「……!」


 マオは二羽のカラスに襲われていて尻もちをつき、半べそをかいている。


 そして、そのカラスたちにアッパー攻撃を仕掛けているクマのぬいぐるみがいた。

3へ続きます。

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