第六十三話:演説
ある晴れた週末の午後、たくさんの店が立ち並んでロボットや人がいっぱいの通りを、ユキとマオが歩いていました。いろんな店で買い物をして、ユキの両手は大きな袋でふさがっています。
そんなユキを置いて、手ぶらなマオは先へ先へと歩いていきます。たくさんの人影にまぎれて迷子になってしまうなんて、彼女の頭には一切ありません。この店はなんだろう、あの店には何が売っているのかな、と興味津々です。
もちろん、ユキはちゃんと妹の背中をしっかり視界に収めていました。数多くの人影から特定の人物を探し出すのは、ロボットである彼女には得意なことでした。
レッカーの停めてある駐車場まであと少しという時、マオはある車の前で足を止めました。車の天井には柵があって、その上に人間の男が一人立って、マイクを持って大声で訴えています。
『かつてこの世界は、人による人のための政治が行われていた! だが今はなんだ、政治家の大半がロボットで、人の意見は少数派になってしまっている。これでいいのか、人のための政策が少なくなり、ロボットのための法律ばかりが増えていく。いくら人口が減少しているとはいえ、奴らをつくった神様である人間を優遇するような決まりごとがないのはおかしい! 今こそ、私たちは立ち上がるべきだ、ロボットから政治を取り返そう!』
車の前には、ユキとマオの他に、七体のアンドロイドと三人の人間が立ち止まり、彼の演説を聞いていました。アンドロイドは顔を上げて彼をまっすぐ見ていますが、人間は三人とも携帯端末をいじっています。人間は彼の支持者で、ネットに演説の内容を書き込んでいました。
「どうしたのマオ、行くわよ」
ユキはマオのすぐ横に立ち、促します。
「ねえ、あの人、何を話してるの?」
マオは車の上に立つ男を指さしました。
「人が得するような決まり事をつくれって訴えているのよ」
ふーん、とマオは興味なさそうに相づちを打ち、「音がうるさい」と、車の前に置かれたスピーカーを指さします。
ユキとマオがそんな話をしている間、周りの店の人間やロボットたちは、その車を見ながら電話をかけていました。
彼女たちがその近くのお店で買い物して外に出たとき、演説していた車の前に警察のロボットが数体やってきて、演説者とその支持者を連行していました。
「どーしたのかな」
マオは姉の顔を見上げます。
「……音がうるさいって、お店の人たちがおまわりさんに電話したようね。うるさくすると、罪になるのよ」
「悪いことしたの、あの人たち? 決まり事をつくってって言ってた人たちが?」
「そういうこと」
「変なの」
「マオはああいうことはしちゃダメよ」
「あたしはいい子だから大丈夫」
「そうね」
二人は、連行されていく人たちに背を向けて歩いていきました。
次話をお楽しみに




