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第六十二話:ある日の川岸

 ある夏の日のこと、ユキたちはとても広い川の岸辺にいた。


 川は、向こう岸まで二百メートルくらいあり、たまに大きな貨物船が通っている。


 ユキは立ったまま釣り糸を垂らしていた。もちろん、マオの夕ご飯の確保だ。ついさっき仕事先の者から、この川はよく釣れる、と教えてもらったのだ。タダで食材を手に入れられるとあって、ユキはとても張り切っていた。ここで大漁であれば、しばらくはもつだろう。同時に、二~三日は魚料理になるだろうが。


 一方、レッカーはクレーンの先に大きな網を取り付けられていて、それを伸ばして川底をさらっている。もちろん、ユキよりも少し離れたところで。何か沈んでいれば、それを拾ってお金に換えられる。


 そしてマオは、レッカーの近くでとても長い木の枝を水面に垂らしていた。釣りというものがなんだか楽しそうだから、ちょっとマネしているのだ。


「釣れない……」


 二十分くらい経ったころ、ユキはため息をついた。


〈まあ、仕事先の人が言ってただろ。これから行っても、昼間は魚も川底に潜んでしまって、釣れにくくなるって。分かってたじゃないか〉

 レッカーは淡々と言う。


「そうだけど……。せめて一匹くらいは……」


 彼女は、今こうして過ごしている時間がムダになるのがイヤで、少し焦っていた。どれくらい粘ればいいだろうか。


「ねえ、もう行こうよー」


 マオが小さくあくびをして、ねだるように言った。


〈ほら、マオが飽きた。眠そうだから、とりあえず俺に乗せたらどうだ〉


 彼の提言に、


「マオ、眠たいなら助手席に座ってなさい」


 マオは素直にレッカーの中に入っていった。


 それから五分ほどして、向こうから親子が歩いてきた。どうやら散歩をしているようで、お父さんと息子とで話をしている。


「お父さん、ところで、川の向こうにある廃墟みたいなのは何?」

「ああ、あれは昔の戦争の跡だよ。放置された街なんだ」

「いつも思ってたけどさ、あんなに自分たちの街を破壊されて、怒った人はいないの? この街に引っ越してきてから、ぼく、誰もそんな人見たことないな」

「そりゃ、怒った人もいたさ。でも、戦争はロボットが勝った。そして、ロボットは街、そして国を住みよいところに変えた。戦争が始まる五年くらい前までは、人だけが国のトップに立っていたんだけど、そのトップたちは人々からたくさん税金を巻き上げたり、気に入らないことがあるとすぐ逮捕出来る権限を警察に与えたりしていた。そんなことをしている国が、この世界にたくさんあった。だから、それを変えてくれて感謝している人が大半だ。教科書でもそう習っただろ?」

「でもでも、家族を殺された人は? そんな人が感謝はしないよね?」

「みんな、今を生きるのに精いっぱいだからなぁ。悲しむことはあるけど、どん底まで落ちた我々は、もう前向きに生きるしかないんだ。ロボットのせいではない理由で、人がこの星ではだんだん住みにくくなってきているが、それでも、ね」

「そうか。今いちピンとこないけど、考えてみるよ。そしたら、ぼくはこれから何をしたらいいかな」

「……お前は、そうだな……。普段から勉強熱心で、家に引きこもって資料ばかり見ているけれど、たまには外に出てあんなことをしたらいいんじゃないか?」

「……あの、お姉さんがやってる釣りみたいな?」

「そうだ。たまに違うことをやってみると、案外何かいいアイデアが浮かぶもんだ。人が暮らしやすくするようにがんばるのが夢なんだろ? ちょっとは冒険してみなさい」

「うん、分かった!」


 親子が自分の背後を歩いて、やがて街の中に消えていったのを横目で見送ったユキは、


「なんかわたし、今自分がとんでもなく誇らしく感じるわ」


〈やってることは、ただの食料調達だけどな〉


「言わないで」


 それからユキは、引っ込めようと思っていた釣り道具を再び川に垂らした。

 レッカーも、それにならって網を川に投げ入れる。


 そして、釣果は……

次話をお楽しみに。

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