第六十一話:崩落
山々に囲まれた町で、鉱石の発掘現場のお手伝いをしていた時のお話です。
家電やロボットなどに使われることのあるレアメタルだそうですが、地下から運び出されてくるのは大小さまざまな大きさの岩です。表面は灰色ですが、断面はまっ黒でした。
これらは、工場で磨いてきれいにすることで、初めて商品になるのだそうです。
ショベルカーでそれらをすくい、レッカーの荷台に載せていきます。普段、レッカーの荷台には、旅をする上で必要な道具がたくさんあるのですが、この仕事をしている間は、発掘をしている会社の事務所に預かってもらっています。二つ返事で引き受けてくれて、とても優しい社長さんでした。
この仕事を始めて三日目、ショベルカーを動かしているアンドロイドの男が休憩中に神妙に話しだしました。
「この発掘現場、入り口は確かに郊外にあるんだが、実際に鉱石を採っているのは、なんと町の真下なんだよ。これってまずいことだと思わないか?」
ユキが、どういうことですか、と尋ねると、
「この現場は、発掘が始まってから五十年くらい経つんだが、あの町の下にはたくさんの横穴が走ってる。そりゃ、闇雲に掘ってるわけじゃないが、あそこは空洞だらけだ。このまま掘り進めるとどうなるか、誰だって分かるだろう?」
崩壊。ユキはぼそっとつぶやきました。
「そうだ。その通りだよ。家に例えたら、柱をどんどん抜いていっているようなものだ。それが度を過ぎると、崩落するのは当然だな」
「でも、あの町には人間やロボットがたくさん住んでいますよね」
「ああ、そうだな。もちろん、事前に退去願いは出す予定らしい。だが、町一つをつぶす、というのは社長の決定事項だ。役員も賛同しているらしく、俺たちみたいな下っ端には何もできない」
「…………」
「あの町は、昔あった戦争にも耐えた。あちこち壊れたが、住人みんなが力を合わせて復興させた。俺もその一人だ。俺だけでなく、他にも町を愛している者はいる。だから、町を捨てたくはない。今は生活していくためにこの仕事をしているが、いずれは別の事業を立ち上げて町を活性化したいと思っている」
「このままだと、あなたの言う通り町はなくなります。何か策はあるんですか」
「交渉は決裂している。だから、強硬な手段を選ぶことにした」
すると、男は握っていた二つの拳を勢いよく広げ、何かが爆発したようなジェスチャーをしました。
「もしかして……」
「察しているようだな。社長の住む家にダイナマイトを仕掛ける。奴は頑丈な金属でできているらしいが、さすがにダイナマイトには耐えられまい。社長を壊せば、脅しになる。俺は捕まるだろうが、その出来事をきっかけに町民が立ち上がって、町を守ってくれるはずだ」
決行日はいつなのか聞きましたが、
「それは教えられない。だが、君たちが仕事を終えてこの町を離れたころにやるつもりだ。心配は無用だ」
社長以外を巻き込む気はないよ、と苦笑いし、休憩を終えた男はその場を離れました。
ユキが発掘現場での仕事を終え、町を離れて二週間ほど経ったころ、ニュースが緊急速報を流しました。
『○○会社の社長宅が大爆発する、という事件が発生しました。ダイナマイトが使われたと見られていますが、爆発した後、社長宅から町へ無数の亀裂が走り、突如町が崩落しました。町の約半分が消滅した、と担当者が語っています。犯人は分かっていませんが、テロの可能性もあるとして、警察は慎重に捜査しています』
次回をお楽しみに。




